8-3骨折(小児の見方・固定・送る判断)
陰性は否定にならない・神経血管皮膚を急ぐ
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次10項目
1ポイント
- 『歩けるから大丈夫』『関節が動くから骨折していない』は成立しない。触ると泣く・手を使わない・足に体重をかけられないがあれば骨折を疑う。乳幼児は所見が乏しい。
- X線で写らない骨折がある(受傷直後・急性塑性変形)。陰性は否定にならない。骨端軟骨や関節内の骨折を疑うなら健側も撮影、または固定して定期的なX線観察で診断をつける。
- 当直で急ぐのは骨ではなく、神経と血管と皮膚。開放骨折・血流障害・コンパートメント症候群が時間の勝負。
- 小児の骨は自家矯正力が高く、1〜2か月で安定する。ただし関節周囲・骨端軟骨の骨折は自家矯正が効かないので別扱い。
2鑑別のながれ
- 単なる打撲や関節脱臼でも似た症状が出る→X線で分ける→打撲・捻挫
- 外傷歴が引っぱられた形、腫脹なし、前腕回内位で下垂→→肘内障(肘内障)
- 発熱+外傷歴なし+動かさない→→化膿性関節炎・骨髄炎(外傷でないものを外す)
- 夜間痛・体重減少・蒼白・紫斑、軽微な外力での骨折→→白血病・骨腫瘍による病的骨折
- 骨全体が弱っていたり一部が溶けていて弱い力でも骨折する→→病的骨折(基礎疾患を探す)
- 健康な骨に弱い力が同じ場所に繰り返し長期間かかる→スポーツ歴を確認→疲労骨折
- 説明と合わない、年齢に合わない、多発・新旧混在→→虐待による骨折(通告)
- 骨折線が現れず弯曲する→健側と比較→急性塑性変形
3レッドフラグ→次の一手
| 119 | 開放骨折を疑う創(骨折部近傍の創、骨の露出がなくても) | 清潔被覆・固定・搬送。早期抗菌薬・破傷風予防を上級医/受入先と直ちに相談し、搬送を遅らせない。創内を消毒しない |
|---|---|---|
| 119 | 末梢の脈が触れない・手が白い・退色反応がない | 血管損傷。早急に手術が必要。整復で戻ることがあるが、戻らなければフォルクマン拘縮の危険 |
| 119 | 安静時痛の増強・他動伸展で激痛・知覚異常・腫脹の緊満 | コンパートメント症候群。ギプス・包帯を直ちに全周切開して緩める。搬送 |
| 119 | 著しい変形・脱臼を伴う | 整復が要る。当直帯にできるか確認し、できなければ搬送を検討 |
| 119 | 頸椎・脊椎の疼痛+神経症状 | 脊椎損傷として固定。持てない |
| 緊急 | 上腕骨顆上骨折を疑う(肘の激痛・腫脹・動かせない) | 神経や血管が損傷されることがある。X線前に末梢の循環と知覚・運動を記録する |
| 緊急 | 手や指がしびれる・動かせない | 骨折片で神経や血管が損傷されている。整形へ |
| 緊急 | 不安定な関節周囲の骨折・大きく転位した骨折 | 入院して持続牽引・経皮ピンニングが要る。当院で持てない |
| 緊急 | 受傷機転と骨折が合わない/年齢に合わない骨折 | 虐待を疑う |
| 緊急 | 歩き始める前の乳児の長管骨骨折 | 同上。原則として虐待を考える |
| 当日 | 転位が軽く、神経・血管が無事 | ギプスやキャストで固定。整形へ |
| 当日 | 痛がるがX線で骨折を確認できない | 固定して定期的なX線観察。『陰性=骨折なし』と言わない |
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4検査
- 服を脱がせて左右を見比べる。腫脹・変形・皮膚の破れ・皮下出血
- 痛がる場所を本人に指させる。乳幼児は動かさない肢を探す
- 触るのは最小限。痛い所を最後に
- 末梢の循環(脈・色・温かさ・毛細血管再充満)と知覚・運動を固定の前に記録する
- 開放創の有無。あれば清潔被覆
- 単純X線を関節を含めて2方向。必要なら健側も
- 固定後にもう一度、循環と知覚を確認して記録する(固定の前後で2回記録)
- 上腕骨顆上骨折を疑うとき:X線前に末梢の循環と知覚・運動を記録する。神経や血管が損傷されることがある
5処置・処方例
Rp. 1アセトアミノフェン 1回15mg/kg(発熱時より増量した鎮痛量)、4〜6時間以上あけて。1日総量60mg/kgかつ1500mgを超えない(1回最大500mg) 内服/坐剤
十分量で使う(剤形の都合で少量になりがちなので注意)。骨折の痛みに。製剤・濃度は当院の採用品で確認する
- カロナールシロップ2%(20mg/mL)なら —、細粒20%(200mg/g)なら — を1回(15mg/kg)
- 坐剤(アンヒバ・アルピニー)は1回 — に一番近い規格・個数を選ぶ(50・100・200mg)
- 次は4〜6時間以上あける。1日の合計は — まで
鎮痛は十分量で使う(剤形の都合で少量になりがちなので注意)。アセトアミノフェンなら、鎮痛目的では発熱時よりも増量した15mg/kg/回が目安。 避けること・注意:『歩ける』『関節が動く』を理由に骨折を否定すること、X線陰性を『骨折なし』と言い切ること、全周ギプスで急性期の腫脹を締めること、歩き始める前の乳児の長管骨骨折を単なる外傷として片付けること。
↑ このページの入口へ6シーネ固定(上腕骨遠位骨幹部骨折の例)
- 固定の前に末梢の循環(脈・色・温かさ・毛細血管再充満)と知覚・運動を記録する
- 隣接する関節を含めて固定する(骨折部の上下の関節をまたぐ)
- 上腕骨遠位骨幹部骨折は肩峰下からのシーネ固定でよい。近位1/3の骨折は肩峰を越えて肩鎖関節を覆う長さにする
- シーネの幅は上腕周径の約1/2を目安にする(必ずしも手関節を越える必要はない)
- 固定したら挙上する
- 固定後にもう一度、末梢の循環と知覚を確認して記録する(固定の前後で2回)
やってはいけない・落とし穴
↑ このページの入口へ- 循環・知覚の記録を固定の前後どちらか一方だけで済ませる
- 急性期に全周ギプス・包帯で締め付ける
- 隣接する関節を含めずに固定し、骨折部が動いてしまう
7送る・持つの目安
- 帰宅転位の軽い骨折:シーネ固定+鎮痛は当院。翌日整形へ、骨折が否定できないがX線陰性:固定して翌日の整形外科受診につなぐ
- 搬送・紹介開放骨折:持てない。清潔被覆・固定して搬送、血流障害・コンパートメント症候群:持てない。締め付けを解除して搬送、神経損傷を伴う:持てない、大きく転位した骨折・関節内骨折・骨端軟骨の骨折:持てない(手術・牽引が要る)、虐待を疑う:持てない。通告と全身の評価、病的骨折を疑う:持てない
8診療中の疑問と回答
- レントゲンが正常なら固定せず帰せる?
- 局所圧痛、荷重できない・使わない部位と機転を評価する。小児は初回に見えない骨折があり、疑いが残れば固定して再評価する。骨端線や関節内損傷の疑い、変形や神経血管異常は整形外科へ早急に相談する。
根拠:RCH 小児筋骨格外傷 / RCH 神経血管評価 - 固定後に痛みが強くなったら鎮痛薬を増やす?
- 固定による圧迫、腫脹と神経血管障害を再診察する。強まる安静時痛、他動伸展痛、しびれ、冷感・色調変化はコンパートメント症候群等を疑う。鎮痛だけで待たず締め付けを解除し、整形外科へ緊急連絡する。脈が触れても除外しない。
根拠:RCH 小児筋骨格外傷 / RCH 神経血管評価 - 痛みがなくなったらスポーツ再開でよい?
- 疼痛だけで骨癒合や骨端線の安全は判断できない。骨折部位・転位・画像経過と機能を整形外科で確認し、固定解除と運動再開を決める。再転倒や接触の危険が高い活動は、日常生活で使えることと分けて判断する。
根拠:RCH 小児筋骨格外傷 / RCH 神経血管評価
- X線が陰性なら骨折はない?
- 言い切れない。受傷直後は写らないことや急性塑性変形がある。疑いが残れば健側撮影や固定して再評価する。
- コンパートメント症候群のサインは?
- 安静時痛の増強・他動伸展での激痛・知覚異常・腫脹の緊満。ギプス・包帯を直ちに全周切開して緩め搬送する。
- 歩く前の乳児の長管骨骨折はどう考える?
- 原則として虐待を考える。受傷機転と骨折が合うかを必ず確認する。
10家族への説明
子どもの骨折は、大人とは違う折れ方をします。しなって曲がるだけの折れ方もあり、レントゲンにすぐ写らないことがあります。ですから、今日のレントゲンで写らなくても、『骨折はない』と言い切ることはできません。触ると痛がる・使わない・体重をかけないが続くようなら、もう一度見せてください。子どもの骨は治る力が強く、多少のずれは成長とともにまっすぐになります。ただし関節のすぐそばの骨折だけは別で、しっかり治す必要があります。おうちでは、安静にして、冷やして、楽な位置に挙げてください。おうちで指先が白い・紫色・冷たい、しびれる、痛みがどんどん強くなる、このどれかがあれば、固定を緩めて、すぐに来てください。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。