10-12初発の無熱性けいれん・てんかんの入口
このページの目次13項目
1病態と根拠
2発作の現象と、その背景を分ける
てんかん発作は脳神経ネットワークの異常な活動による一時的な症状で、全身のけいれんに限らない。焦点発作では片側の動き、眼球偏位、感覚症状や反応低下だけのことがある。最初に見えた症状、左右差、回復までの順序が、発作が始まったネットワークを考える手がかりになる。目撃者の説明と安全に撮影された動画を、診断の中心に置く。[1]
一度の発作は、慢性的な発作の起こりやすさを示す場合と、低血糖・電解質異常・脳炎・外傷・脳卒中などの急性の侵襲への反応である場合がある。後者では抗発作薬だけで原因が解決するわけではない。血糖と呼吸循環を先に確認し、感染、外傷、毒物曝露、血圧、代謝異常の手がかりを同時に評価する。[1][2]
3年齢・発達背景で優先順位が変わる
生後6か月未満では、低血糖、電解質異常、感染、構造異常、遺伝・代謝疾患など治療可能な原因を特に意識する。体重増加不良、絶食との関係、反復嘔吐、発達の停滞・退行、特徴的な皮膚所見を確認する。短い発作を何度もまとめて起こす乳児では、単発の無熱性けいれんの方針を適用せず、乳児てんかん性スパズムとして早急に専門相談する。
学童・思春期では、欠神、起床後のミオクローヌス、過去に見逃された短い発作がないかを問診する。「初発」と思われた全身発作が、実際には既に存在する症候群の一部であることがある。周産期障害、発達遅滞、既知の脳病変があれば、正常発達の児と同じ再発リスクにはならない。[1]
4意識が戻らないときの分岐
発作後の眠気はみられるが、回復は繰り返し診察して確かめる。鎮静・抗発作薬の投与時刻と量、低酸素や低血糖の有無も記録する。悪化する意識、瞳孔異常、新たな片麻痺、呼吸異常、反復発作では「30分待つ」という観察をしない。回復が期待どおり進まない場合は、非けいれん性重積、代謝障害、脳炎・急性脳症、頭蓋内病変を考える。[2][3]
新たな片麻痺をTodd麻痺と決める前に、小児脳卒中を含む急性病変を除外する。発作と脳卒中は共存しうる。当院は夜間CT・MRIができないため、緊急画像が必要な所見を認めた時点で搬送先に相談する。髄膜炎を疑っても、新規巣症状・瞳孔異常・重度または進行する意識低下、循環・呼吸不安定時は腰椎穿刺を保留し、安定化、抗菌薬、緊急相談を先行させる。[2][4]
5検査は何を答えるために行うか
| 検査 | 答えたい問い | 限界 |
|---|---|---|
| 血糖・電解質・血液ガス | 補正すべき急性症候性の原因か | 正常でも脳炎・脳卒中・てんかんを除外できない |
| 心電図 | 不整脈による失神に伴う運動ではないか | 発作的な不整脈は一回の記録で捕まらないことがある |
| 脳波 | 発作型・症候群・再発リスクの手がかりがあるか | 発作間欠期の正常脳波はてんかんを否定しない。異常だけでも発作の診断は確定しない |
| MRI | 原因となる構造異常があるか | 偶発所見の可能性があり、発作の臨床像との整合性が必要 |
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完全に回復した児の通常脳波は、夜間にすべて行う検査ではない。一方、意識回復不良では重積評価、乳児のスパズム疑いでは睡眠を含む脳波が診療の時間軸を変える。「脳波は急がない」をすべての児に広げない。採血の範囲も年齢、回復、持続時間、代謝・脱水の背景に応じる。[1][2]
6抗発作薬を始める判断の根拠
初回の非誘発性発作に早期治療を行うと短期再発は抑えやすいが、遅延治療と比較した長期寛解の改善は明確ではない。このため、単発・完全回復・神経診察正常の児で、一律に長期薬物療法を開始しない方針には根拠がある。[1] ただし、これは重積、急性原因の治療、乳児スパズム、既にてんかん症候群を満たす児を待つ根拠にはならない。
脳波・画像・発達背景、再発時の傷害リスク、本人・家族の意向を合わせて専門医と判断する。本文の再発率は特定の小児コホート全体の値で、目の前の児の確率をそのまま示さない。研究の対象、発作型、観察期間が異なれば数字も変わる。[1]
7経過の確認と生活指導
帰宅前に普段の反応・歩行・左右差を再評価し、再診日と脳波・専門相談の実施先を具体化する。当院の生後6か月未満の児は、完全に回復していても夜間は入院し、日勤帯に専門施設へ相談する。回復不良や反復は夜間の搬送対象である。
再発記録には開始時刻、持続、左右差、意識、回復、発熱を残す。水中・入浴、高所、交通場面では監督と安全策を相談し、過度に活動全体を制限しない。家族には5分以上の発作、覚めないまま反復、呼吸異常の救急対応を伝える。頓用薬は当院の初発時方針に沿い、必要になった場合は適応、投与経路、呼吸観察、119番の条件を別途確認する。[2]
8参照資料
- [1] 日本神経学会ほか『てんかん診療ガイドライン2018』第4章 CQ4-1〜4-3。小児初発発作の診断・治療開始。https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/tenkan_2018_04.pdf
- [2] Royal Children's Hospital. *Seizures — acute management*. 2025年6月更新。年齢・回復による検査、初発発作のフォロー。https://www.rch.org.au/clinicalguide/guideline_index/Seizures_-_acute_management/
- [3] 日本小児神経学会『小児急性脳症診療ガイドライン2023』。けいれん後の意識障害、二相性経過。https://www.childneuro.jp/uploads/files/about/AE2016GL/01ae2023_total.pdf
- [4] Royal Children's Hospital. *Lumbar puncture*. 禁忌と安定化・治療の優先。https://www.rch.org.au/clinicalguide/guideline_index/Lumbar_puncture/
9既存手順の参照資料
- 日本神経学会(監修)「てんかん診療ガイドライン」作成委員会(編).てんかん診療ガイドライン2018.医学書院.全文公開版 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/tenkan_2018.html (2026-09-12閲覧)
- 第1章 てんかんの診断・分類,鑑別 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/tenkan_2018_01.pdf :CQ1-1「てんかんとはなにか」。ILAE 2014の定義(①24時間以上の間隔で2回以上の非誘発性(または反射性)発作が生じる ②1回の非誘発性(または反射性)発作が生じ、その後10年間にわたる発作再発率が2回の非誘発性発作後の一般的な再発リスク(60%以上)と同程度である ③てんかん症候群と診断されている)。「非誘発性発作(unprovoked seizure)という用語は、明らかな誘因がない慢性疾患としての自発発作である。これに対し『誘発性発作』は、急性症候性発作、状況関連発作ともよばれ、脳炎、外傷、脳血管障害、代謝障害などの急性の脳への侵襲に対する反応として発症する発作である」。
- 第3章 成人てんかんの薬物療法 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/tenkan_2018_03.pdf :CQ3-1「初回てんかん発作で薬物療法を開始すべきか」。「初回の非誘発性発作では、以下の場合を除き原則として抗てんかん薬の治療は開始しない」「初回発作でも神経学的異常、脳波異常、脳画像病変ないしはてんかんの家族歴がある場合は、再発率が高く治療開始を考慮する」「2回目の発作が出現した場合は、1年以内の発作出現率が高く、抗てんかん薬の加療開始が推奨される」「初回非誘発性発作症例の5年以内での発作出現率は約35%であるが、2回目の発作後の1年以内の再発率は73%となる」。
- 第4章 小児・思春期のてんかんと治療 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/tenkan_2018_04.pdf :CQ4-2「小児・思春期の初発非誘発性発作ではどのような検査が推奨されるか」(脳波検査のてんかん波検出率は成人より高く、最も有用性が高い/神経画像検査を行う場合はMRIが推奨される/小児初発発作後に18〜56%の患者でてんかん性脳波異常(成人では13〜35%)/てんかん性脳波異常が存在すると正常脳波の場合と比較しその後のてんかん発症率が約2倍/Shinnarら321例中135例(42%)に脳波異常/症候性てんかん群では脳波異常を示した103例中54%で再発、示さなかった165例では25%/3回以降の脳波検査でてんかん性脳波異常が出現する機会は少ない/初発非誘発性発作411例に画像検査を行い脳腫瘍・神経有鉤囊虫症をそれぞれ2例/MRI 58例中19例(33%)に異常/田辺らの本邦前向き研究で41例中10例(24.4%)に異常、うち4例が皮質形成異常/小児の初発発作は低血糖や電解質異常でも起こりうるので、一般血液検査を行うことには意義がある)。CQ4-3「小児・思春期の初発非誘発性発作は2回目以降に治療しても長期発作予後は変わらないか」(成人の場合と同様に、小児・思春期の初発非誘発性発作は2回目以降に治療しても長期発作予後は変わらない/迅速治療群は遅延治療群に比較して発作のすみやかな抑制には優れていたが、長期予後(寛解)には有意差はみられなかった/初回発作を起こした患者を未治療のまま経過をみても、半分の患者では発作の再発がみられない)。CQ4-1(小児てんかん全体で部分てんかん症候群が60〜70%、全般てんかん症候群が20〜30%/小児てんかんでは年齢が生後1か月より18歳前後までを扱う)。
- 第16章 急性症候性発作 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/tenkan_2018_16.pdf :CQ16-2「急性症候性発作の原因はなにか」の表1(脳血管障害=脳血管障害から7日以内に起こる発作/中枢神経系感染症=活動期に起こる発作/頭部外傷=頭部外傷から7日以内に起こる発作/代謝性・全身性疾患=電解質異常、低血糖、非ケトン性高血糖、尿毒症、低酸素性脳症、肝性脳症、高血圧性脳症、子癇、PRES、SLE、ミトコンドリア脳症など/中毒=麻薬、処方薬(アミノフィリン、イミプラミンなど)、危険ドラッグ、薬剤過剰摂取、環境からの曝露(一酸化炭素、鉛、樟脳、有機リンなど)、アルコール)。「急性症候性発作では、明確な原因と関連すること、急性疾患があるため死亡率が高いことと、短期間の抗てんかん薬投与であることが、てんかんと異なる。新生児期と高齢者で頻度が高い」。
- Shinnar S, Berg AT, O'Dell C, Newstein D, Moshé SL, Hauser WA. Predictors of multiple seizures in a cohort of children prospectively followed from the time of their first unprovoked seizure. Ann Neurol. 2000;48(2):140-147.(小児407例を平均9.6年前向き追跡した単独コホート研究。「再発率」表の5年43%/2回目後1年57%の出典。本セッションでEuropePMC(EXT_ID:10939563)のabstractTextを直接取得・逐語確認済み。フルテキスト〔PDF本体〕は未取得)
10臨床医が迷う場面
11初めての無熱性けいれんが止まったら、すぐ維持薬を始める?
単回で止まり意識が戻っただけでは、長期抗発作薬の開始を自動的に決めない。低血糖、電解質異常、感染、外傷、薬物曝露など誘因を確認し、発作の動画と経過を添えて小児神経に相談する。乳児、局在所見、回復遅延では緊急性を上げる。
12来院時に発作が続き、開始時刻が分からない場合は?
開始時刻不明の持続発作は、短時間と推測して観察を延長せず治療する。気道、呼吸、循環と血糖を確認し、救急搬送中や家庭で投与されたベンゾジアゼピンの回数も合算する。止まらない場合は重積の手順へ移り、反復投与による呼吸抑制も監視する。
13発作後に元気なら、全例で緊急脳波やCTが必要?
回復した単回発作に、脳波やCTを一律に緊急実施するのではなく、年齢、外傷、局在性、頭蓋内圧亢進所見、意識回復を基に選ぶ。退院時は再発時の安全確保と救急受診の条件を具体的に伝え、初回無熱性発作として専門外来の評価につなぐ。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。