3-8腸閉塞・イレウス
胆汁性嘔吐・血行障害・年齢別の原因
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次9項目
1ポイント
- 血行障害を起こしているか否かで治療方針が異なる。血行障害を起こしていることが強く疑われれば緊急手術が必要。
- 血行障害があれば症状は重篤で、非常に強い腹痛を来す。下血も血行障害を考えさせる所見として重要。
- 腹部手術の既往を必ず聞く。以前にお腹の中の手術をしているときは、5%ぐらいの頻度で術後に腸閉塞が発生する。
- 年齢で原因が変わる。肥厚性幽門狭窄症は生後1か月前後の噴水状嘔吐+体重増加不良、腸重積は3か月〜2歳の間欠的な啼泣+嘔吐+不機嫌が症状の手がかり。腸回転異常・中腸軸捻転は新生児期以降に発生するものが2割で、年長児の反復性嘔吐の原因にもなる。
- 主症状は嘔吐。ただし嘔吐を来す腸閉塞以外の多くの疾患があり、区別が必要。
2鑑別のながれ
- 乳児期の溢乳・嘔吐→胃と食道の逆流防止機構が不完全→胃食道逆流症
- 嘔吐+血便・湿疹→小児嘔吐のかくれた原因→ミルクアレルギー
- 嘔吐+下痢→周囲の流行→胃腸炎
- 嘔吐+多飲多尿・体重減少→深く速い呼吸→DKA
- 嘔吐+右下腹部痛→発熱→虫垂炎
- 女児の突然の強い下腹部痛→嘔吐を伴う→卵巣腫瘍茎捻転
3検査
- 嘔吐物の色を自分で見る。胆汁性なら中腸軸捻転として動く
- 鼠径部と陰嚢を見る(嵌頓ヘルニア・精巣捻転の除外)
- 腹部手術の既往を聞き、傷を探す
- 血算・生化・電解質・血ガス(繰り返す嘔吐、特に肥厚性幽門狭窄症では低クロール性・低カリウム性代謝性アルカローシスになりうる)
- 腹部X線(鏡面像・ガス分布・遊離ガス)は夜間も撮れる。腹部エコーだけが当直帯に当てられないので、画像が揃うのを待たずに次へ進む
4処置・処方例
Rp. 1アセトアミノフェン 1回10〜15mg/kg、4〜6時間以上あけて投与。1日総量60mg/kgかつ1,500mgを超えない(1回最大500mg) 坐剤
搬送前の鎮痛は非オピオイドを基本とする第一選択。絶飲食・嘔吐中のため内服(シロップ・細粒)は使わず坐剤のみとする
- 坐剤:1回 —〜— に一番近い規格・個数を選ぶ(アンヒバ/アルピニー 50・100・200mg)
- 次は4〜6時間以上あける。1日の合計は — まで
Rp. 2維持輸液(体重換算) 当院独自の投与量は定めない。体重あたりの時間量はHolliday-Segar法で計算する 点滴
↑ このページの入口へ血行障害を疑わず搬送前後に必要な維持輸液の速度。計算は本シート単独では示さない——経口補水・点滴の維持輸液ツールに体重を入れて時間あたり量を確認する
- 経口補水・点滴を開き、体重を入力して時間あたり量を確認する
- 確認した速度で、絶飲食のまま搬送中も点滴を継続する
5経鼻胃管による減圧
- 太さ:なるべく太いチューブを使う。小児では主に4〜8Frのものを使用する
- 挿入する長さの目安:鼻腔(口が使えれば口腔でも可)から耳朶を経て剣状突起までの距離を測り、その位置にマークしておく
- チューブ先端から5cm程度のところを持ち、先端をやや下方に向けて、鼻尖から耳孔に向けるイメージで鼻腔に挿入する。上咽頭まで進んだら、嚥下に合わせて奥へ進める
- マークした長さまで挿入したら、空気を注入しながら心窩部で気泡音を確認する(聴診法)。可能なら胃内容の吸引でも確認する
- 聴診・吸引だけでは誤認することがある。確認が難しければX線写真で位置を確認する
- 位置を確認できたら、低圧の間欠的吸引により胃の減圧をはかる
- 絶飲食を保ち、輸液を続けながら搬送する
やってはいけない・落とし穴
↑ このページの入口へ- 血行障害(強い腹痛・下血・ショック)を疑う場合は、胃管留置や輸液のために緊急搬送を遅らせない
- 細いチューブでは減圧が不十分になりうる。なるべく太いものを使う
- 気道が不安定・顔面外傷・頚椎外傷がある児では、鼻からの挿入で悪化させうる
- 挿入時に鼻腔粘膜損傷・鼻出血・気管への誤挿入・梨状窩から縦隔への穿孔が起こりうる。抵抗が強い、呼吸状態が変わるときは無理に進めない
6帰宅・入院の目安
- 帰宅腸閉塞が否定的で、嘔吐の原因が説明できる
- 入院肥厚性幽門狭窄症の輸液補正は当院で開始する
- 搬送・紹介血行障害を疑う(強い腹痛・下血・ショック)、胆汁性嘔吐、術後腸閉塞、新生児の腸閉塞、嵌頓ヘルニア、腸重積(当直帯は整復に進めない)、肥厚性幽門狭窄症(輸液補正後、手術のため転送)
7診療中の疑問と回答
- 吐き気止めで吐かなくなった。腸閉塞は否定できる?
- 制吐薬への反応では閉塞を否定できない。胆汁性嘔吐、腹部膨満、排便・排ガス、手術歴、局在する痛みや血便を確認する。疑えば絶飲食、輸液・必要な減圧と外科相談を行う。症状を隠して飲水させ、診断を先送りにしない。
根拠:RCH 小児嘔吐(海外) - 胆汁性嘔吐は、腹部がまだ軟らかくても緊急?
- 濃緑色の嘔吐は閉塞、とくに中腸軸捻転を考える。初期に腹部所見が乏しくても否定できず、外科へ速やかに連絡する。ショック・血便・強い持続痛は虚血を疑い、画像がそろうのを待たない。胆汁の色が不明なら現物や写真などで確認する。
根拠:RCH 小児嘔吐(海外) - 手術歴があり軽い嘔吐を繰り返す。下剤で様子を見る?
- 癒着による通過障害を検討し、排便があることだけで部分閉塞を否定しない。腹部膨満、疼痛、脱水と画像を評価し、外科へ相談する。閉塞が疑わしい段階で下剤や食事負荷を自己判断で追加せず、悪化や血行障害の徴候を反復して診る。
根拠:RCH 小児嘔吐(海外)
- 血行障害はどう見分ける?
- 非常に強い腹痛と下血が手がかり。血行障害が強く疑われれば緊急手術が必要になる。
- 腹部手術の既往がある嘔吐はどう考える?
- 術後腸閉塞を疑う。約5%の頻度で発生する。持てないので送る。
- 搬送前に何をする?
- 経鼻胃管を留置して減圧し、体重換算の維持輸液を開始する。鎮痛はアセトアミノフェン等の非オピオイドを基本とする。
9家族への説明
腸の通り道がふさがっている(腸閉塞)可能性を考えています。子どもの腸閉塞は、年齢によって原因が違います。大事なのは、ふさがっているところの血の巡りが止まっているかどうかです。血の巡りが止まっている場合は、急いで手術が必要になります。とても強い痛みや血便は、そのサインです。血の巡りが保たれている場合は、点滴と、鼻から入れる管でお腹の中の圧を下げる治療から始めます。どちらにしても、手術ができる病院で診ていただく必要があります。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。