8-2化膿性関節炎・骨髄炎
歩きたがらない・腕をあげない → 関節か骨かを分ける
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次9項目
1ポイント
- 主訴は『歩きたがらない』『腕をあげない』。痛みによる可動域制限で来院することが多く、熱がないこともある。
- 関節炎と骨髄炎を分ける。骨髄炎は抗菌薬で治りうるが、化膿性関節炎は外科的ドレナージが要る。当院に関節ドレナージがないので、関節炎を疑った時点で送る。
- 化膿性股関節炎は緊急疾患。診断の遅れ・不適切な治療は関節の破壊・変形・重篤な後遺障害につながる。早期の抗菌薬投与と外科的ドレナージが重要。
- 起因菌は黄色ブドウ球菌が全体の8割(MRSAが10%。海外報告。国内の股関節炎集計ではMRSA18.4%)。3歳未満ではS. pneumoniaeやKingella kingaeもありうる。当直でやることは3つ:①関節を動かして痛がる部位を特定する ②血液培養を採る ③送る。
2鑑別のながれ
- あらゆる方向の他動運動で関節そのものが痛む。股関節なら軽度屈曲・外転・外旋位で固定→関節内圧が最も低い肢位で固定される所見そのもの→化膿性関節炎(持てない・時間の勝負で搬送)
- 骨幹端の一点に強い圧痛。関節は初期は動かせる→特定の姿位はない→化膿性骨髄炎(持てない・血培を採って搬送)
- 新生児・乳児で肢を動かさない(偽性麻痺)→発熱や局所の所見が乏しいまま進むことがある→感染症を疑う閾値を下げる。所見が乏しくても化膿性関節炎・骨髄炎として扱う
- 発熱を伴う跛行が2日以上続く→軽症に見えても経過が長い→単純性股関節炎として様子を見ない。化膿性を外せないなら送る
- 発熱なし・歩行可能・炎症反応(CRP等)軽度の3条件をすべて満たす→化膿性を外したうえで判断する→単純性股関節炎(一過性滑膜炎)(当院でフォロー可。3条件を満たさない・判断に迷うなら送る)
- 朝のこわばり、多関節、数週の経過→→若年性特発性関節炎(専門施設)
- 夜間痛・体重減少・蒼白・紫斑・血算異常→末梢血液像で除外する→白血病・骨腫瘍(持てない)
- 紫斑・腹痛を伴う→→IgA血管炎
- 移動性の関節炎・先行する咽頭炎・心炎→→急性リウマチ熱
- 亜急性〜慢性の経過、発熱なし、肥満(大腿骨頭すべり症)→→Perthes病・大腿骨頭すべり症(整形へ)
- 受傷歴と症状が合わない、外傷の説明が変わる→→虐待(通告を検討)
3検査
- 全身の関節を見る。乳児は服を全部脱がせて動かさない肢を探す。新生児・乳児は発熱や局所所見が乏しいまま進む(偽性麻痺)ことがあるため閾値を下げる
- 痛がる部位を特定する:関節の他動運動 vs 骨の一点圧痛
- 血液培養を採る(抗菌薬の前に。夜間は検査室へ提出できないため、採取後は保管し翌朝提出する)
- 血算・CRP・生化:末梢血液像で白血病を除外する(当直帯に鏡検は出ないため翌朝に回す)。赤沈は夜間に出せない
- X線:骨破壊が写るのは発症から7〜10日後。初期は正常でも否定しない
- 関節エコー・MRIは当直帯に撮れない。肢位・自動運動の拒否・熱感で代える
- 関節液の穿刺はドレナージができる施設で行う。当院では穿刺は行わず、疑った時点で整形外科のある施設へ搬送する
4対応の注意
避けること・注意:熱がない・けがをしていないことを理由に感染を否定すること、化膿性関節炎を疑いながら当院で関節穿刺のみ行うこと、抗菌薬投与前に血液培養を採り忘れること。
↑ このページの入口へ5関節か骨かを分ける診察(他動運動・圧痛の探り方)
- 乳児は服を全部脱がせて全身の関節を見る。動かさない肢を探す
- 疑う関節を、あらゆる方向にゆっくり他動運動させる。関節そのものが痛むなら化膿性関節炎を疑う
- 股関節を疑うときは肢位を見る:軽度屈曲・外転・外旋位で固定されていれば、それ自体が陽性所見(関節内圧が最も低い肢位で固定される)
- 長管骨の骨幹端を一点ずつ圧迫して探る。骨幹端の一点に強い圧痛があれば骨髄炎を疑う(関節自体は初期は動かせる)
- 痛がる場所が関節そのものか骨の一点かで、化膿性関節炎(持てない・時間の勝負で搬送)と骨髄炎(血培を採って搬送)を分ける
やってはいけない・落とし穴
↑ このページの入口へ- 熱がない・けがをしていないことを理由に感染を否定しない
- 化膿性関節炎を疑いながら当院で関節穿刺のみ行わない。ドレナージができないため、疑った時点で整形外科のある施設へ搬送する
- 化膿性か単純性か決められないなら、決められないこと自体を搬送の理由とする
6送る・持つの目安
- 帰宅発熱なし・歩行可能・炎症反応軽度の3条件をすべて満たす単純性股関節炎:当院でフォロー可。症状消失を確認するまで2〜3日毎に再診する(院内方針院内)
- 搬送・紹介化膿性関節炎を疑う:持てない。時間の勝負として搬送、化膿性股関節炎を疑う:持てない。緊急、骨髄炎を疑う:持てない(4〜6週の治療が要る)。血培を採って搬送、敗血症を伴う:初期輸液・抗菌薬は当院で開始。持てない、化膿性か単純性か決められない:決められないこと自体が搬送の理由
7診療中の疑問と回答
- 炎症反応が低くX線も正常なら、骨関節感染は否定できる?
- 初期や一部の病原体では検査異常が乏しい。荷重不能、関節可動時痛、局在する圧痛、動かさない四肢を重視する。疑いが残れば超音波・MRIや専門評価を相談する。当院では関節炎を疑った時点で処置可能な施設へつなぎ、画像変化を待たない。
根拠:PIDS/IDSA 小児細菌性関節炎GL2023 / RCH 骨・関節感染(海外) - 培養のために抗菌薬を待ってよい?
- 全身状態が悪い・急速に進行する場合は、採れる血液培養を確保して抗菌薬を遅らせない。安定例では関節液採取との順序を整形外科と速やかに調整する。培養を優先するあまり搬送や治療を遅らせず、投与薬と採取時刻を引き継ぐ。
根拠:PIDS/IDSA 小児細菌性関節炎GL2023 / RCH 骨・関節感染(海外) - 熱が下がったら、すぐ内服へ切り替えてよい?
- 解熱だけでなく疼痛、可動域、荷重、炎症反応、菌血症や膿瘍の有無と内服可能性を評価する。原因菌に有効な薬が選べ、服薬と再診が確実かを専門医と判断する。合併症や経過で治療期間が変わるため、一律の日数で静注終了や全治療終了としない。
根拠:PIDS/IDSA 小児細菌性関節炎GL2023 / RCH 骨・関節感染(海外)
- 熱がなければ感染は否定できる?
- できない。熱がないこともある。けがをしていないことも感染を否定する材料にならない。
- X線が正常なら骨髄炎は否定できる?
- できない。骨破壊が写るのは発症から7〜10日後。初期は正常でも否定しない。
- 関節炎か骨髄炎か迷うときは?
- 痛がる場所で分ける。関節そのものが痛むなら関節炎、骨幹端の一点なら骨髄炎。決められないなら送る。
- 培養を採った後なら、搬送を待たずに当院で抗菌薬を始めていい?
- よい。搬送先と電話で開始のタイミングを決める。
9家族への説明
足を使わない、腕をあげないというのは、子どもが痛みを訴える言い方です。原因は、けが・ばい菌の感染・血液の病気など、いくつも考えられます。特に、関節にばい菌が入る病気(化膿性関節炎)は、時間が経つほど関節が壊れてしまうので、早く見つけて、関節にたまった膿を出す処置が必要になります。この処置は当院ではできないため、できる病院にお願いします。熱がないから感染ではない、けがをしていないから感染ではない、とは言えません。今日はばい菌を調べる血液の検査(培養)を採らせてください。お薬を始める前に採らないと、原因のばい菌がわからなくなるためです。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。