5-2 くり返すおなかの痛み(機能性腹痛)

緊急

5-2くり返すおなかの痛み(機能性腹痛)

病態・根拠
このページの目次11項目

1一目でわかるフロー

反復性腹痛の訴えで受診(3ヶ月以上、月1回以上の頻度が目安)
        │
        ▼
① 問診・診察でレッドフラグ評価(§1)── 成長曲線を必ず確認
        │
   ┌────┴─────┐
  あり            なし
   │              │
   ▼              ▼
精査・紹介       ② Rome IVで病型分類を試みる(§2)
(本フロー外・     IBS型/FD型/腹部片頭痛型/FAP-NOS
 器質性疾患         │
 ワークアップへ)    ▼
                 ③ 最小限の検査(§3)
                 全例:腹部診察・肛門周囲視診・成長曲線・便潜血
                 選択的:血算/CRP・尿検査・便中カルプロテクチン
                 (セリアック抗体は日本では自費・低有病率ゆえ選択的)
                        │
                   ┌────┴─────┐
                異常あり         異常なし
                   │              │
                   ▼              ▼
               器質性疾患       ④ 機能性腹痛と診断・説明
               の精査へ           生物心理社会モデルで治療開始(§4)
                                    │
                              ┌─────┴─────┐
                           4〜8週で改善      不変・悪化・新規レッドフラグ
                              │              │
                              ▼              ▼
                        ⑤ 経過観察・        レッドフラグ再評価
                        登校継続を維持       /専門科紹介検討(§5・§6)
                        (§5)

図は横にスクロールできます →

※ フロー図冒頭の「3ヶ月以上・月1回以上」は受診時の広いスクリーニング閾値(古典的Apley基準に準拠する実務上の目安)。§2のRome IV病型分類基準(月4回以上・2ヶ月以上)とは別の、より厳密な基準であり、両者は「入口は広く→病型分類は厳密に」という二段構えの関係にある。

2レッドフラグ(見逃し厳禁)

以下があれば「機能性」と決め打ちせず器質的疾患の精査を優先する[6][7]。

  • 成長・栄養: 体重減少、成長曲線の下方屈曲(クロスライン)、思春期発来の遅延、低栄養所見
  • 痛みの性状: 夜間に覚醒するほどの痛み、臍から離れた限局痛(特に右上・右下腹部に持続する痛み)、腹膜刺激徴候を伴う痛み
  • 消化管出血・便通異常: 血便・下血(便潜血陽性を含む)、夜間の下痢、持続する嘔吐(特に胆汁性・血性)
  • 全身症状: 原因不明の発熱、嚥下障害・嚥下痛、多尿・多飲を伴う体重減少(新規発症1型糖尿病・糖尿病性ケトアシドーシス〈DKA〉の除外——小児DKAは腹痛が初発症状となり急性胃腸炎等と誤診されるリスクが知られる)[19]
  • 腸管外症状: 関節痛・関節腫脹、原因不明の皮疹、口腔内アフタ
  • 婦人科的(思春期女子): 突然発症の強い下腹部痛(卵巣・付属器捻転は自然整復により間欠的な痛みを繰り返すことがあり、周期性の腹痛として腹部片頭痛型との鑑別に注意を要する——臨床診断であり画像検査を待たず速やかな婦人科紹介を要する)、月経周期に関連しない持続的な骨盤痛や月経困難症(子宮内膜症等の鑑別)[14][15]
  • 身体所見: 腹部腫瘤・肝脾腫、肛門周囲病変(裂肛・瘻孔・スキンタグ・膿瘍)、貧血様所見
  • 既往・家族歴: 炎症性腸疾患(IBD)の家族歴、腹部手術歴
  • その他: 症状パターンの急な変化、6歳未満での発症(器質的疾患の割合が相対的に高い)

これらがなく、身体診察が正常で便潜血陰性であれば、それ以上の検査なしに機能性腹痛と診断してよい、というのがAAP/NASPGHAN以来の一貫した立場である[6][7]。

3重症度・病型の判定

Rome IV(機能性消化管疾患関連腹痛)の共通定義:発作性または持続性の腹痛が月4回以上・2ヶ月以上持続し、食事や月経など生理的事象のみに限らず、適切な評価の上で他疾患で説明できないもの[8][9]。この共通枠の中で以下4病型に分類を試みる(相互排他ではなく重複することもある)。

病型中核基準(要旨)
IBS型(過敏性腸症候群)腹痛が①排便に関連する②排便頻度の変化を伴う③便形状の変化を伴う、のいずれか1つ以上を満たす。下痢型/便秘型/混合型/分類不能型に細分[1][3]
FD型(機能性ディスペプシア)排便と無関係な心窩部痛・灼熱感、または食後膨満感・早期飽満感が月4日以上・2ヶ月以上。Postprandial Distress SyndromeとEpigastric Pain Syndromeに分類[2][3]
腹部片頭痛発作性の強い臍周囲・正中・びまん性の急性腹痛(発作間は無症状)で、悪心・嘔吐・食欲不振・頭痛・光過敏・顔面蒼白のうち2項目以上を伴う周期性エピソード。片頭痛の家族歴を伴うことが多い[要確認:Rome IV原典での正確な頻度・期間要件は一次資料(Gastroenterology 2016, Child/Adolescent章)で要照合][7][9]
FAP-NOS(特定不能の機能性腹痛)上記いずれの基準も満たさない慢性・反復性腹痛。以前のRome III「機能性腹痛」「機能性腹痛症候群」を統合した概念[9]

表は横にスクロールできます →

重症度は病型よりも「機能障害の程度」で評価するのが実務上重要——長期予後は機能性腹痛の下位分類そのものよりも、不安・抑うつなどの心理的併存や頭痛などの身体症状随伴の有無に強く影響される[7]。評価軸として、欠席日数・睡眠障害の有無・活動制限の程度・不安/抑うつスクリーニングを組み合わせる。

4検査

  • 必要:
  • 全例:詳細な問診(痛みの部位・性状・時間的関連・排便との関連・食事との関連・随伴症状・家族歴・思春期女子は月経周期との関連/初経の有無)、腹部診察(Carnett徴候の確認を含む——腹壁を緊張させた状態で圧痛が増強する陽性所見は前皮神経絞扼症候群〈ACNES〉を示唆し、慢性腹痛小児の一部で機能性腹痛と誤診されている報告がある)[16]、肛門周囲視診、成長曲線の確認、便潜血
  • レッドフラグあり、または症状が持続し不安が強い場合の選択的検査:血算、CRP/赤沈、尿検査(UTI除外。多尿・多飲・体重減少を伴う場合は尿糖・尿ケトンも確認しDKAを除外)
  • 慢性下痢・体重減少を伴い炎症性腸疾患を否定しきれない場合:便中カルプロテクチン(内視鏡前のスクリーニングとして日本でも2017年に潰瘍性大腸炎、2022年にクローン病まで保険適用が拡大。ただし肉眼的血便がある例や小児では健常でも基準値が高めに出うる点に留意)[要確認:院内でのオーダー可否・小児カットオフ運用]
  • セリアック病:欧米ガイドラインでは抗tTG-IgA+総IgAを初回スクリーニングとして推奨するが、日本人の有病率は約0.05%と極めて低く、診断目的の抗体検査は自費になるケースが多い——ルーチンでなく、下痢・成長障害・鉄欠乏性貧血など示唆所見がある場合に選択的に検討する。
  • 不要・過剰になりがち:
  • レッドフラグがない状態での腹部超音波・CT・内視鏡検査のルーチン施行(超音波は機能性腹痛の診断に有意な寄与をしないとされる)[7]
  • 保護者の不安軽減のみを目的とした画像検査の反復
  • レッドフラグなしでの繰り返す採血
  • 診断されていないセリアック病・乳糖不耐症を前提とした長期の経験的除去食(グルテン除去・乳糖除去を「試しに」長期間続けること)

5治療

  • 第一選択:
  • 全病型共通:生物心理社会モデルに基づく説明(「痛みは本物だが、命に関わる病気ではない」を明確に伝える)、通常の生活リズム・登校の継続、排便習慣の是正(便秘の合併があれば先に治療する——便秘は反復性腹痛の隠れた原因として頻度が高い)、症状日記
  • 便秘合併時:浸透圧性下剤(酸化マグネシウム 0.02〜0.1 g/kg/日、分2、開始量0.03〜0.05 g/kg/日を目安に漸増——小児慢性機能性便秘症診療ガイドラインの一般論。2025年に改訂版が発刊されており用量が同一かは要照合)[4][5][17]
  • IBS型:食物繊維の調整、低FODMAP食の試験的除去(2〜4週間試し、改善なければ通常食に戻す)、プロバイオティクス(*Lactobacillus reuteri*、*L. rhamnosus GG* を6〜8週間、症状再燃時は再開を検討——中等度のエビデンス)[7]。下痢優位型にはポリカルボフィルカルシウムを考慮しうるが、添付文書上「小児等を対象とした有効性及び安全性を指標とした臨床試験は実施していない」——小児での有効性・安全性は確立しておらず、使用する場合は年齢・体重に応じた個別判断とする[13]
  • FD型:六君子湯(成人FDに対しては日本消化器病学会「機能性消化管疾患診療ガイドライン2021-機能性ディスペプシア(FD)(改訂第2版)」CQ4-4が「六君子湯は有用であり,使用することを推奨する」〈推奨の強さ:強(合意率92%)、エビデンスレベル:A〉としていることを原文で確認した(出典: 同ガイドライン CQ4-4, 確認日 2026-09-25)。小児での用量設定・エビデンスは成人データの外挿であることに変わりはない)、症状に応じて酸分泌抑制薬(H2受容体拮抗薬等)[2]。
  • 腹部片頭痛:誘因(睡眠不足・絶食・特定食品・ストレス)の同定と回避が中心。頻回発作例での予防薬(シプロヘプタジン等)は成人・小児片頭痛領域からの外挿的知見にとどまる。
  • FAP-NOS:薬物療法より心理社会的介入(認知行動療法、催眠療法、バイオフィードバック、リラクゼーション)を優先——第一選択とはせず難治例に留保するのが基本的な位置づけ[7]
  • 第二選択・無効時:
  • 上記の初期対応(目安4〜8週間)で機能障害(欠席・活動制限)が改善しない場合、心療小児科・児童精神科と連携した認知行動療法などの心理的介入
  • 不安・抑うつなど明らかな心理的併存疾患がある場合に限り、専門医管理下でのSSRI等の検討(小児における機能性腹痛への有効性そのものは「結論が出ていない」と位置づけられている)[7]
  • やってはいけない/非推奨:
  • レッドフラグがないまま画像検査・侵襲的検査を繰り返すこと
  • 三環系抗うつ薬(アミトリプチリン等)の安易な使用——日本の添付文書上、小児のうつ病治療における使用経験は少なく投与しないことが望ましいとされ、鎮痛目的でのoff-label使用も小児での有効性エビデンスが不十分。使うなら専門医(心療小児科等)管理下に限定[12]
  • 慢性的なNSAIDs・オピオイド系鎮痛薬の連用
  • 「気のせい」「心の問題」という説明のしかた(症状を否定すると治療関係を損ない、受診回避や不登校の悪化につながりうる)
  • 症状固定を強化するような過剰な学校配慮(長期欠席の常態化)——原則は通常の生活リズム維持

6再診・帰宅指導・保護者説明

  • 再受診すべきサイン(保護者に伝える):

体重が減る/身長が伸び悩む、便に血が混じる、嘔吐が続く、原因不明の発熱が出る、痛みで夜中に目が覚めるようになる、関節が腫れる・痛む、これまでと違うパターンの痛みに変わる——これらが出たらすぐ受診

  • 経過の見通し・登園/登校の目安:

機能性腹痛は良くなったり悪くなったりを繰り返しながら数ヶ月〜数年の経過をとることが多く、器質的な病気ではないため命に関わることはない。一方で一部は思春期・成人期まで症状が続き、成人IBS患者の多くが小児期に同様の症状を経験していたとの報告もある[7]。痛みの強さそのものより「生活できているか」を評価軸にする——原則として登園・登校は休ませず通常通り継続し、痛みを理由に欠席が習慣化しないよう本人・保護者・学校で足並みを揃える

  • 紹介・入院の閾値:
  • レッドフラグ(§1)のいずれかが出現・持続する場合は速やかに専門科(小児消化器等)へ
  • 適切な初期対応(4〜8週間目安)を行っても欠席日数・活動制限などの機能障害が改善しない場合
  • 便中カルプロテクチン高値、CRP高値、貧血、成長曲線の下方屈曲など検査異常を認めた場合→小児消化器専門施設
  • 難治性の腹部片頭痛→小児神経科
  • 強い不安・抑うつ、希死念慮を疑う場合→児童精神科・心療小児科
  • 入院は、経口摂取不能・脱水・急性腹症を積極的に疑う場合など器質的疾患の存在が濃厚なケースに限定し、機能性腹痛の疼痛コントロールのみを目的とした入院は基本的に行わない

7出典(日本のGL優先・URL+版年。運用前に最新版確認)

8臨床医が迷う場面

9検査が正常なら、痛みは気のせいと説明する?

痛みが本物であることを伝え、機能性腹痛の仕組みを説明する。欠席、食事、睡眠、活動への影響を聞き、痛みをゼロにすることだけでなく生活回復の目標を作る。定期的に成長や新たな赤旗を確認し、検査を繰り返すだけの対応にしない。

出典:RCH 慢性腹痛(海外小児指針)

10いつもの腹痛で来たが、今回は強い。定期処方だけでよい?

今回の発症、部位、嘔吐・血便・発熱、局在する圧痛を診直す。特に急な下腹部痛や陰嚢症状は捻転などを考え、慢性痛のラベルで緊急疾患を除外しない。当院当直帯で必要な画像ができなければ、検査可能な施設へ早期相談する。

出典:RCH 慢性腹痛(海外小児指針)

11腹痛が続くから、食物除去や鎮痛薬を次々追加する?

便秘の有無、症状と食事・排便の関連を再評価する。根拠のない多品目除去は成長・栄養を損ねるため、試す場合も栄養士等と目的・期間・再評価を決める。長期NSAIDs・オピオイドは避け、支障が強い例は消化器や心理支援へつなぐ。

出典:RCH 慢性腹痛(海外小児指針)

一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。

スペースで絞り込み(例:夜尿症 休薬)↑↓ 移動 / Enter 開く