5-2くり返すおなかの痛み(機能性腹痛)
レッドフラグを外してから機能性と診断する
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次8項目
1ポイント
- レッドフラグ(成長曲線の下方屈曲・夜間覚醒する痛み・血便・原因不明の発熱等)がなく、身体診察が正常で便潜血陰性なら、それ以上の検査なしに機能性腹痛と診断してよい。
- 思春期女子の突然発症の強い下腹部痛は夜に外せない。卵巣・付属器の捻転は自然整復で間欠的に繰り返すため「いつもの腹痛」に紛れる。
- 当直帯に腹部エコー・CTは無い。反復する腹痛は本来、時間をかけて外来で診るものなので、画像が無いことは大きな損失ではない。
- Rome IVは月4回以上・2ヶ月以上の腹痛を機能性消化管疾患関連腹痛の共通枠とする。
2鑑別のながれ
- 反復性腹痛→体重減少・成長曲線の下方屈曲・思春期発来の遅延→器質性疾患(成長・栄養のレッドフラグ)
- 反復性腹痛→夜間に覚醒するほどの痛み、臍から離れた限局痛(右上・右下腹部)→器質性疾患(痛みの性状のレッドフラグ)
- 反復性腹痛→血便・下血(便潜血陽性含む)、持続する嘔吐(特に胆汁性・血性)→器質性疾患(消化管出血・閉塞のレッドフラグ)
- 反復性腹痛→原因不明の発熱、関節痛・関節腫脹、原因不明の皮疹、口腔内アフタ→器質性疾患(IBD等・全身症状のレッドフラグ)
- 反復性腹痛→嚥下障害・嚥下痛、6歳未満での初発、症状パターンの急な変化→器質性疾患(見逃してはいけない所見)
- 思春期女子の突然発症の強い下腹部痛→自然整復で間欠的に繰り返すことがある→卵巣・付属器捻転(画像を待たず婦人科紹介)
- 腹痛+多尿・多飲を伴う体重減少→新規発症1型糖尿病→DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)の除外
3検査
- 全例:詳細な問診(部位・性状・時間的関連・排便/食事との関連・随伴症状・家族歴)、腹部診察、肛門周囲視診、成長曲線の確認、便潜血。
- 腹壁を緊張させた状態で圧痛が増強するか確認する(Carnett徴候)。陽性ならACNES(前皮神経絞扼症候群)を疑い、機能性腹痛と決め打ちしない。
- レッドフラグあり、または症状が持続し不安が強い場合:血算、CRP(赤沈は当直帯に出せない)、尿検査(UTI除外。多尿・多飲・体重減少があれば尿糖・尿ケトンも)。
- レッドフラグがない状態での腹部超音波・CT・内視鏡検査のルーチン施行は過剰(超音波は機能性腹痛の診断に有意な寄与をしないとされる)。
4処置・処方例
Rp. 1酸化マグネシウム(便秘合併時) 0.02〜0.1 g/kg/日、分2。開始量は0.03〜0.05 g/kg/日を目安に漸増 内服
反復性腹痛に便秘の合併があれば、まず便秘を治療する(便秘は反復性腹痛の隠れた原因として頻度が高い)
- 開始量: 1日量 —〜—を分2(朝夕など)で内服させる
- 効果をみながら1日量 —〜—の範囲で漸増・調整する
- 軟便になりすぎる場合は減量する
Rp. 2プロバイオティクス(IBS型) Lactobacillus reuteriまたはL. rhamnosus GGを6〜8週間 内服
IBS型で食物繊維の調整・低FODMAP食の試験的除去と並行して考慮する(中等度のエビデンス)。製品・用量は採用品で確認
- Lactobacillus reuteriまたはL. rhamnosus GGを含む製剤を6〜8週間内服させる
- 6〜8週間で改善を評価する
- 症状が再燃した場合は再開を検討する
Rp. 3六君子湯(FD型) 5.0〜7.5 g/日、分2〜3 内服
排便と無関係な心窩部痛・膨満感(FD型)に考慮する。この量は体重30kg前後を目安とした成人量の1/2〜2/3程度の表示で、体重比例のスケーリングではない。小児では保険適用外のことが多く、使用にあたっては注意が必要(採用品で確認)
- 1日量5.0〜7.5gを分2〜3(食前)で内服させる
- 小児での確立した体重換算量ではないため、症状・忍容性を見ながら調整する
腹部片頭痛の予防薬(シプロヘプタジン等)・三環系抗うつ薬・SSRIは、正本に小児での確立した用量が無いため本シートには量を書かない(専門医管理下の検討事項)。下痢優位型IBSのポリカルボフィルカルシウムは添付文書上『小児等を対象とした有効性及び安全性を指標とした臨床試験は実施していない』ため、使う場合は年齢・体重に応じ個別に判断する(当直で新規開始する薬ではない)。 避けること・注意:レッドフラグがないまま画像検査・侵襲的検査を繰り返さない。三環系抗うつ薬(アミトリプチリン等)は小児のうつ病治療における使用経験が少なく、鎮痛目的でのoff-label使用も有効性エビデンスが不十分。使うなら専門医管理下に限定する。慢性的なNSAIDs・オピオイド系鎮痛薬の連用も避ける。
↑ このページの入口へ5帰宅・入院の目安
- 帰宅レッドフラグなし・身体診察正常・便潜血陰性:機能性腹痛と診断し生物心理社会モデルで説明。通常の生活リズム・登校を継続する
- 搬送・紹介レッドフラグ(成長曲線の下方屈曲・血便・原因不明の発熱・関節痛等):精査・専門科紹介、思春期女子の突然発症の強い下腹部痛:画像を待たず婦人科紹介、適切な初期対応(4〜8週間目安)で機能障害が改善しない:心療小児科・児童精神科と連携
6診療中の疑問と回答
- 検査が正常なら、痛みは気のせいと説明する?
- 痛みが本物であることを伝え、機能性腹痛の仕組みを説明する。欠席、食事、睡眠、活動への影響を聞き、痛みをゼロにすることだけでなく生活回復の目標を作る。定期的に成長や新たな赤旗を確認し、検査を繰り返すだけの対応にしない。
根拠:RCH 慢性腹痛(海外小児指針) - いつもの腹痛で来たが、今回は強い。定期処方だけでよい?
- 今回の発症、部位、嘔吐・血便・発熱、局在する圧痛を診直す。特に急な下腹部痛や陰嚢症状は捻転などを考え、慢性痛のラベルで緊急疾患を除外しない。当院当直帯で必要な画像ができなければ、検査可能な施設へ早期相談する。
根拠:RCH 慢性腹痛(海外小児指針) - 腹痛が続くから、食物除去や鎮痛薬を次々追加する?
- 便秘の有無、症状と食事・排便の関連を再評価する。根拠のない多品目除去は成長・栄養を損ねるため、試す場合も栄養士等と目的・期間・再評価を決める。長期NSAIDs・オピオイドは避け、支障が強い例は消化器や心理支援へつなぐ。
根拠:RCH 慢性腹痛(海外小児指針)
- どこまで検査すればよいか?
- レッドフラグがなく身体診察が正常で便潜血陰性なら、それ以上の検査なしに機能性腹痛と診断してよい。画像検査のルーチン施行や繰り返す採血は過剰。
- 「いつもの腹痛」と違うときは?
- 思春期女子の突然発症の強い下腹部痛は、繰り返していても今回が突然で強いなら卵巣・付属器捻転を考え、扱いを変える。
8家族への説明
体重が減ってきた、身長の伸びが鈍ってきた、便に血が混じる、吐いたものに血や緑色(胆汁)が混じる、原因のわからない発熱が続く、痛みで夜中に目が覚める、おへそから離れた強い痛みが続く、関節が腫れる・原因不明の発疹がある、思春期の女の子で片方だけ急に強いおなかの下の痛みが起こった——このいずれかがあれば、様子を見ずに連絡してください。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。