3-9肥厚性幽門狭窄症
非胆汁性嘔吐・輸液優先・電解質補正
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次8項目
1ポイント
- 嘔吐は通常非胆汁性。緑色の胆汁性なら閉塞性疾患を緊急に評価し、中腸軸捻転を最優先で外す。色が不明なら現物・写真で確認し、黄色との区別だけで閉塞を除外しない。
- 生後2〜8週(ピーク3〜6週)。12週以降はまれ。男児に多い。
- 哺乳意欲は保たれる。吐いた直後にまた欲しがるのが特徴。「吐くのに飲みたがる」。
- 手術は緊急ではない。まず輸液で脱水と電解質(ClとK)を補正することが最優先。
- 低クロール性・低カリウム性代謝性アルカローシスが典型。当直帯にエコーは無いが、当院の仕事は輸液と電解質補正であり、それは当直帯でもできる。
- 疑診時点で輸液・電解質補正と連携先への相談を並行し、診断・画像・搬送時期を専門先と個別に決める。鑑別未了の児を一律に翌日まで待たせない。
2鑑別のながれ
- 胆汁性嘔吐→腹部は平坦〜陥凹のことが多く、急速に進行→中腸軸捻転・腸回転異常症(最優先で外す)
- 溢乳が主体→体重増加は保たれることが多い→胃食道逆流症
- 嘔吐→血便・湿疹、体重増加不良を伴う→牛乳蛋白アレルギー
- 生直後からの嘔吐→生後2週未満→先天性消化管閉鎖
- 低Na・高K・アシドーシス→幽門狭窄の低Cl・低K・アルカローシスと対照的→副腎皮質過形成(21水酸化酵素欠損の塩喪失型)
3検査
- ショック・意識低下を伴う脱水があれば、幽門狭窄の精査より先に循環を安定させる(輸液・酸素・モニタリングを優先)
- 嘔吐の色を自分で確認する。胆汁性ならこのシートを離れ、中腸軸捻転を疑う
- 脱水の評価(体重減少・皮膚・尿量・大泉門)。直近の健診体重・母子手帳と比較する
- 血液ガスと電解質(Cl・K)を出す。低クロール性・低カリウム性代謝性アルカローシスが典型。血液ガスも電解質も当直帯に出せるため、夜でもそのまま実行できる
- 腹部エコーで幽門筋層厚3〜4mm以上・幽門管長14〜17mm以上を見るが、当直帯は当院で当てられない。輸液を画像待ちで遅らせず、疑診当日に専門先へ相談し、画像の時刻・場所と搬送計画を決める
- オリーブ様腫瘤の触知率は経験によって大きく変動する。触れなくても電解質と経過で動く。早期例では典型的な腫瘤・アルカローシスがないこともあり、正常所見だけで除外しない
4処置・処方例
Rp. 1輸液・電解質補正(組成・速度は個別確認) 蘇生・脱水の欠損補正・維持を区別し、循環、Na/K/Cl、血糖、尿量に応じ上級医・専門先と決める 点滴(末梢静脈路)
↑ このページの入口へRCHは蘇生に0.9%NaCl、欠損補正・維持に0.9%NaCl+5%ブドウ糖を示す。海外の手順であり当院の採用製剤・処方手順は未確認。旧書籍の生食と糖液1:1、100mL/kg/日、KCl濃度を一律初期オーダーとして使わない。
- 循環不全があれば蘇生を優先し、維持量や欠損補正とは別に評価する
- 血液ガス、Na/K/Cl、血糖、腎機能と尿量を確認し、輸液目的・組成・速度を個別に決める
- K追加は尿量・腎機能・血清Kを確認して判断する
- 疑診当日の小児外科相談と並行し、補正経過・開始した輸液と時刻を伝える
5帰宅・入院の目安
- 入院非胆汁性嘔吐で本症を疑うなら、確定を待たず入院とし輸液・電解質補正を開始する
- 搬送・紹介胆汁性嘔吐だった場合は別疾患。緊急搬送する(中腸軸捻転)、幽門筋切開術は専門施設へ。輸液・電解質補正を開始し、疑診時点で当日中に専門先へ相談して診断・搬送時期を個別に決める。既存院内方針院内の入院安定化は維持し、一律翌日待機とはしない
6診療中の疑問と回答
- 初回の超音波で確定しないが、噴水状嘔吐が続く。除外してよい?
- 発症早期は典型的な計測値がそろわない場合がある。非胆汁性嘔吐の反復、哺乳意欲、体重と脱水を評価し、疑いが続けば専門先と再超音波を相談する。陰性画像だけで終了せず、胆汁性嘔吐や全身状態悪化では別の閉塞性疾患を緊急評価する。
根拠:RCH 肥厚性幽門狭窄(海外小児指針) - 手術を急ぐため、電解質補正を後回しにしてよい?
- 幽門筋切開の前に脱水、低Cl・低K、代謝性アルカローシスを補正する。補正不十分では周術期の呼吸などの危険がある。絶飲食・輸液と必要な減圧を行い、検査の推移を追う。専門施設への相談は補正完了まで待たず、治療と搬送計画を並行する。
根拠:RCH 肥厚性幽門狭窄(海外小児指針) - 電解質が正常なので、吐き戻しとして帰宅できる?
- 早期には典型的な電解質異常がないことがある。噴水状嘔吐の反復や体重増加不良があれば症状から疑い、超音波と専門評価へつなぐ。吐いた後にまた飲みたがることも安心材料にしない。飲水・尿量と脱水を確認し、再診時期を明確にする。
根拠:RCH 肥厚性幽門狭窄(海外小児指針)
- 胆汁性嘔吐でも幽門狭窄を疑っていい?
- いいえ。幽門狭窄の嘔吐は定義上非胆汁性。胆汁性なら中腸軸捻転を最優先で外す。
- エコーが無い夜はどうする?
- 輸液と電解質補正を先行し、疑診時点で当日中に専門先へ相談する。画像の時刻・実施場所と搬送時期を児の状態・鑑別で個別に決め、一律翌日待機とはしない。
- 急いで手術先に送るべき?
- 手術は脱水・電解質/酸塩基異常を補正してから行う。輸液を開始すると同時に疑診時点で専門先へ相談し、診断・搬送時期を個別に決める。
8家族への説明
胃の出口の筋肉が厚くなって、母乳やミルクの通り道が狭くなる病気です。まず点滴で体の中の水分と塩分のバランスを整えてから、短い手術で通り道を広げます。手術を急ぐ病気ではなく、体の状態を万全にしてから行います。当院では手術ができないので、手術のできる病院にお願いします。吐いたものに緑色がついたときは別の病気の可能性があるので、すぐ教えてください。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。