5-16肛門周囲膿瘍・裂肛
乳児痔瘻は珍しくない・切開排膿は外科へ
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次9項目
1ポイント
- 裂肛は硬便が原因で、赤ちゃんの血便の最多原因。太くかたい便が肛門を通るときに粘膜や皮膚が切れてできる。
- 乳児痔瘻・肛門周囲膿瘍は珍しくない。男の子に多く、生後1か月前後から1歳位に多い。多くは下痢や軟便が続いた後に発症する。
- 治療の柱は排膿と便性コントロール。切開排膿は行わず外科へ送る(当院は院内外科的処置なし)。
- 多くは1〜2歳で自然に治るが、まれに2歳以上になっても残ることがあり経過観察を続ける。
- 新生児期発症・瘻管(肛門腺)が長い・多発例は難治化しやすい(医学書)。保存的治療に反応せず1歳を過ぎても治らない、または1歳を過ぎてから発症したら免疫不全症・Crohn病を疑う(通常の自然経過=1〜2歳で軽快とは別の基準)。
2鑑別のながれ
- 硬便・排便時痛を伴う血便→便に付着する少量の鮮血→裂肛(便性コントロール)
- 生後1か月〜1歳、下痢や軟便が続いた後の発赤・腫脹→波動を触れることがある→乳児痔瘻・肛門周囲膿瘍
- 肛門周囲の発赤が膿瘍の範囲を越えて急速に広がる→皮膚の色調不良・強い疼痛を伴う→蜂窩織炎に準じて評価。壊死性軟部組織感染症は稀だが否定できなければ外科紹介(本シートで一次資料は未確認)
- 潰瘍・浮腫状皮垂を伴う非典型の肛門病変→慢性下痢・体重増加不良を伴う→クローン病・免疫異常症(頻度は稀)
- 発熱・活気不良・哺乳不良を伴う膿瘍→特に生後3か月未満→局所の膿瘍だけで片づけない(敗血症を疑うときに準じる)
- 出生時からの肛門の形・位置の異常(母子手帳・新生児健診での指摘)→今回はじめて気づいた/新生児期からの所見→直腸肛門奇形・鎖肛術後の合併症を疑う(専門施設へ)
3検査
- 肛門周囲を視診・触診し、発赤・腫脹の範囲、波動の有無、潰瘍・浮腫状皮垂の有無(非典型のサイン)を見る。
- 便性状・排便時痛・便への血液付着の有無を聞く(裂肛の合併)。
- 全身状態とバイタル。特に若年乳児は活気・哺乳・体温を必ず確認する。
- 初発か再発かを聞く(再発を繰り返すなら小児外科紹介の材料)。
4処置・処方例
Rp. 1裂肛・痔核の局所治療薬(例:強力ポステリザン軟膏、ポステリザンF坐薬。ステロイド配合) 軟膏は1日1〜3回塗布または注入、坐薬は1回1個を1日1〜3回挿肛。いずれも痛み・出血の症状がなくなるまで 外用(軟膏・坐薬)
対象は年長児のみ。乳児(本シートが対象とする生後1か月前後〜1歳位)には使用しない——医学書の処方例は年長児向けで、乳児での使用実績は本シートで確認していない。ステロイド薬を含むため長期使用はしない。採用品で確認
- 乳児には使用しない。対象は年長児のみ(医学書の処方例は年長児向けで、乳児での使用実績は未確認)
- 排便後に肛門周囲を清潔にする
- 軟膏は1日1〜3回、少量を患部に塗布または肛門内に注入する
- 坐薬は1回1個を1日1〜3回、排便後・寝る前を目安に挿肛する
- 痛み・出血の症状がなくなれば使用をやめる。ステロイド含有のため長期使用はしない
乳児痔瘻・肛門周囲膿瘍そのものへの内服抗菌薬・軟膏の適応は一次資料(学会解説)に記載がない。上の外用薬は裂肛・痔核に炎症が強いときの対症療法として医学書から補ったもので、医学書の処方例自体が年長児向けのため乳児には使わない。波動を触れる膿瘍の切開排膿は当院で行わず外科へ送る。
↑ このページの入口へ5波動を触れる膿瘍への対応
- 波動を触れる・自壊が近い場合は排膿の適応。皮膚に小さな穴を開けて溜まっている膿を出さなければ治らない。
- 切開排膿は行わず外科へ送る(当院は院内外科的処置なし)。
- 排膿後(または排膿不要なら)下痢を止めて便性を整え、肛門の回りの皮膚を清潔に保つよう指導する。
やってはいけない・落とし穴
↑ このページの入口へ- 非典型(潰瘍・浮腫状皮垂)を「いつもの乳児痔瘻」として軟膏だけで終わらせない
- 2歳以降も残る・再発を繰り返す痔瘻を「そのうち治る」で経過観察を打ち切らない
6帰宅・入院の目安
- 帰宅波動を触れない軽度の発赤・腫脹(定型の乳児痔瘻):当院で経過観察・便性コントロールの指導、裂肛単独(血便の原因):当院で対応。便性コントロール
- 搬送・紹介波動を触れる膿瘍(切開排膿の適応):外科へ、再発を繰り返す乳児痔瘻:成人の痔瘻と同じような手術が要ることがある。小児外科へ紹介、潰瘍・浮腫状皮垂を伴う非典型例:持てない。クローン病・免疫異常症の精査へ、発熱・活気不良を伴う膿瘍(特に若年乳児):持てない、発赤が膿瘍の範囲を越えて急速に拡大:蜂窩織炎に準じて評価。壊死性軟部組織感染症を否定できなければ外科へ
7診療中の疑問と回答
- 硬便のあと少量の鮮血。裂肛として何を調整する?
- 肛門の裂傷と便性状、排便時痛を確認し、便を軟らかく保って痛みからの排便我慢を断つ。出血の量が増える、軟便でも続く、腹痛・下痢・成長不良を伴う場合は裂肛だけと決めず別の腸疾患を評価する。
根拠:GOSH Anal fissure・小児肛門症状 / 北野病院小児外科 肛門周囲膿瘍(乳児痔瘻) - 肛門の赤い腫れを外用だけで追ってよい?
- 発熱、活気低下、波動、周囲へ広がる発赤を確認する。膿瘍は塗り薬だけでは解決しないことがあり、当院では切開排膿をせず小児外科へ紹介する。自宅で絞るよう指示せず、若年乳児の全身症状や急速な悪化は即日評価する。
根拠:GOSH Anal fissure・小児肛門症状 / 北野病院小児外科 肛門周囲膿瘍(乳児痔瘻) - 何度も同じ場所が腫れる乳児では何を確認する?
- 排便と局所の経過を記録し、痔瘻を含め小児外科で評価する。通常の乳児痔瘻の経過だけに当てはめず、年長での発症、複数病変、潰瘍・皮垂、下痢や成長不良は炎症性腸疾患・免疫異常の評価を相談する。
根拠:GOSH Anal fissure・小児肛門症状 / 北野病院小児外科 肛門周囲膿瘍(乳児痔瘻) / CPS 小児皮膚軟部組織感染(反復性肛門周囲膿瘍)
- 自宅で様子を見てよい膿瘍か迷ったら?
- 波動を触れる・自壊が近いなら排膿が要る。当院は院内切開排膿を行わず外科へ送る。
- いつまで様子を見てよいか?
- 多くは1〜2歳で自然に治るが、まれに2歳以上になっても残ることがあり、この時にも診察を受けるよう伝える。
9家族への説明
おしりの周りが赤く腫れて膿を持つ状態は、赤ちゃんには珍しくありません。多くは男の子で、生後1か月から1歳ごろによく見られ、下痢やゆるい便が続いたあとに起こります。膿がたまって腫れが強いときは、皮膚に小さな穴を開けて膿を出す処置が必要になることがあります。出したあとは、下痢を治して便を整え、おしりの周りを清潔に保つことが治療の中心です。多くは1〜2歳までに自然に治りますが、繰り返したり、2歳を過ぎても残るときは、また診せてください。硬い便が原因で肛門が切れる裂肛も、赤ちゃんの血便でいちばん多い原因です。便を柔らかく保つことで治っていきます。
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