7-3 急性中耳炎

緊急

7-3急性中耳炎

病態・根拠
このページの目次14項目

1一目でわかるフロー

受診(耳痛・発熱・耳漏・不機嫌などの訴え)
  → レッドフラグ評価(乳様突起炎・顔面神経麻痺・髄膜刺激症状・GL適用外病態)
      該当あり → 本GLは適用せず、即日耳鼻咽喉科紹介/救急対応
  → 気密式耳鏡で鼓膜所見を確認し急性中耳炎と診断
  → 重症度スコア判定(軽症/中等症/重症)
  → 検査(細菌学的検査の要否、ティンパノメトリーの要否)
  → 治療(重症度別アルゴリズムに従い抗菌薬 or 経過観察、鼓膜切開の適応検討)
  → 3〜4日目に再評価 → 改善なければ次段階の抗菌薬へ
  → 再診・帰宅指導・耳鼻咽喉科紹介基準の適用(反復性・遷延性・難治性の判定含む)

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2レッドフラグ(見逃し厳禁)

本ガイドラインは以下を対象外と明記しており、該当すれば通常の重症度アルゴリズムに乗せず、耳鼻咽喉科への緊急紹介・入院を検討する。

  • 急性乳様突起炎(耳介後部の発赤・腫脹・圧痛、耳介の前方への偏位、波動感)— 中耳炎の重篤な合併症。GL適用対象外。
  • 顔面神経麻痺(中耳炎に伴う末梢性顔面神経麻痺)— GL適用対象外。合併症としての中耳炎であり緊急紹介。
  • 頭蓋内合併症を疑う髄膜刺激症状(項部硬直、乳児の大泉門膨隆、意識障害・傾眠、痙攣など)— 硬膜外膿瘍・静脈洞血栓症・髄膜炎などを疑う所見。GL適用対象外、救急・脳外科/感染症科との連携が必要。
  • 内耳障害を疑う所見(高度難聴、めまい・ふらつき)を伴う急性中耳炎 — GL適用対象外。
  • 複視・眼球運動の左右差(外転神経麻痺) — 錐体尖炎(Gradenigo症候群: 三叉神経領域痛〈眼窩後部痛〉+外転神経麻痺+耳漏の三徴)を示唆する所見。三徴の定義と、臨床像の多様さから見逃されやすい稀な合併症であることは症例報告文献で確認できる(出典: Gradenigo syndrome complicated by a retro-pharyngeal abscess in an 8-year-old child: A case report and literature review, PMC, 確認日 2026-09-25)。GLの対象外規定「頭蓋内合併症などがみられる急性中耳炎」に包含される。国内GL本文に本症候群の明文規定はなく、レッドフラグとして明記するかは当院判断。
  • 遷延・反復のパターン(後述、2026-07時点でGL上の定義に基づく)
  • 遷延性中耳炎: 耳痛・発熱など急性症状が顕在化しないまま、急性中耳炎と同様の鼓膜所見が3週間以上持続
  • 反復性中耳炎: 「過去6カ月以内に3回以上、または12カ月以内に4回以上」急性中耳炎に罹患
  • 難治性中耳炎: 本ガイドラインのアルゴリズムに準じた一連の治療を完遂しても、初診時の臨床症状・鼓膜所見が改善しない状態
  • → これらは薬剤耐性菌・宿主免疫(IgG2低値など)・器質的要因の関与を考慮し、耳鼻咽喉科への評価紹介(鼓膜切開・鼓膜換気チューブ・免疫学的評価の適応検討)を推奨
  • その他GL適用対象外(個別に判断): 滲出性中耳炎、鼓膜換気チューブ留置例、頭蓋・顔面の先天性形態異常、重大な免疫不全のある症例、水疱性鼓膜炎

3重症度・病型の判定

急性中耳炎は鼓膜所見と臨床症状のスコアにより軽症・中等症・重症に分類する(ガイドライン作成委員会提案のスコアリング。24カ月齢未満は年齢加点3点)。

項目0点加点
年齢(24カ月未満)―3点(該当すれば加算)
耳痛0(なし)1(痛みあり) / 2(持続性の高度疼痛)
発熱(腋窩温)0(37.5℃未満)1(37.5〜38.5℃未満) / 2(38.5℃以上)
啼泣・不機嫌0(なし)1(あり)
鼓膜発赤0(なし)2(ツチ骨柄あるいは鼓膜の一部の発赤) / 4(鼓膜全体の発赤)
鼓膜膨隆0(なし)4(部分的な膨隆) / 8(鼓膜全体の膨隆)
耳漏0(なし)4(外耳道に膿汁あるが鼓膜観察可能) / 8(鼓膜が膿汁のため観察できない)

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※鼓膜膨隆と耳漏のスコアは加算可(両方あれば合算する)。

合計点数による分類

  • 軽症: 5点以下
  • 中等症: 6〜11点
  • 重症: 12点以上

診断そのものの鼓膜所見要件(GLの急性中耳炎定義): 中等度〜高度の鼓膜膨隆、あるいは急性外耳炎に起因しない耳漏の出現。または軽度の鼓膜膨隆と48時間以内に発症した耳痛(言語化前の児では耳を押さえる・ひっぱる・こすりつける)あるいは急性発症の耳痛と鼓膜の強い発赤。中耳貯留液がみられない場合は急性中耳炎と診断すべきではない。

4検査

  • 必要:
  • 薬剤アレルギー歴(薬剤名・反応内容)の確認 — βラクタム系(ペニシリン系・セフェム系)アレルギーの既往がある場合は当該系統薬を使用しない。抗菌薬選択の前段として問診票に必須項目として組み込む(出典: GL2024 p.36 表13 問診票/p.56 CQ3-1 例外規定)。
  • 気密式耳鏡による鼓膜の詳細な観察(発赤・膨隆・耳漏の有無)— 診断・重症度判定の根幹。正確な鼓膜所見評価が最重要。
  • 抗菌薬の使用前・変更時の細菌学的検査(中耳貯留液または耳漏、あるいは上咽頭ぬぐい液のグラム染色・培養)— 原因菌・感受性に基づく抗菌薬選択のため、中等症・重症では推奨。
  • ティンパノメトリー: 鼓膜の詳細な観察のみでは中耳貯留液の有無が判断困難な例で、客観的指標として使用を推奨(推奨の強さ: 推奨、エビデンスの質: B)。ただし本邦で普及するプローブ音226Hzの機器は生後6カ月未満では信頼性が乏しい点に注意。耳漏がある患者には実施しない(GL2024 CQ1-3 p.37 益と害の評価・例外規定)。
  • 不要・過剰になりがち:
  • レッドフラグを伴わない典型例での血液検査・画像検査(頭部CT等)— 乳様突起炎・頭蓋内合併症を疑う所見がない限り原則不要。
  • 発赤のみで鼓膜膨隆・耳漏を伴わない例を「急性中耳炎」として抗菌薬治療の対象にすること(発赤のみでは診断根拠として不十分)。
  • 迅速抗原検査は補助的位置づけ(実施体制・意義はGL第3章参照。当院での採用有無は要確認)。

5治療

治療は重症度別アルゴリズムに沿って段階的に行う。各段階で3〜5日投与し、改善なければ次段階へ。抗菌薬使用前に細菌学的検査を実施し、選択・変更の参考にする。経過観察は初診時より3週間までを目安とする。

軽症(5点以下)

  • 抗菌薬非投与で3日間経過観察(自然経過の観察を推奨。推奨の強さ: 推奨、エビデンスの質: B)
  • 改善なければ→ 第一選択: アモキシシリン(AMPC)高用量、3〜5日投与
  • なお改善なければ→ 原因菌・感受性を考慮し、CVA/AMPC(クラブラン酸/アモキシシリン 1:14製剤)またはCDTR-PI(セフジトレン ピボキシル)高用量を3〜5日投与

中等症(6〜11点)

院内採用(下記アルゴリズムはGL2024 p.86-88のアルゴリズム図に基づき中等症・重症を分離修正済み)。

  • 第一選択: AMPC高用量を3〜5日投与。鼓膜切開の適応を検討。
  • 第二選択(無効時): AMPC高用量/CVA/AMPC(1:14)/CDTR-PI高用量のいずれかを3〜5日投与。鼓膜切開の適応を再検討。
  • 第三選択(なお無効時): CVA/AMPC(1:14)/CDTR-PI高用量/TBPM-PI(テビペネム ピボキシル)常用量/TFLX(トスフロキサシン)常用量のいずれかを3〜5日投与。

重症(12点以上)

院内採用。

  • 第一選択: AMPC高用量、またはCVA/AMPC(1:14製剤)を3〜5日投与。鼓膜切開の適応を検討。
  • 第二選択(無効時): CVA/AMPC(1:14)/CDTR-PI高用量/TFLX常用量のいずれかを3〜5日投与(AMPC高用量は含めない=既に無効だった薬剤を再掲しない)。鼓膜切開の適応を再検討。
  • 第三選択(なお無効時): 経口ではTBPM-PI高用量(中等症の常用量とは区別。投与期間は7日以内目安)またはTFLX常用量のいずれかを3〜5日投与(CVA/AMPC・CDTR-PIは重症の第三選択には含めない)。または以下の静注抗菌薬を3日間点滴静注:
  • ABPC(アンピシリン)150mg/kg/日 分3
  • CTRX(セフトリアキソン)60mg/kg/日 分2または分1(新生児は50mg/kg/日以下)。高ビリルビン血症を伴う未熟児・新生児には禁忌(核黄疸リスク)。カルシウム含有製剤・輸液と同一経路での同時投与も禁忌(結晶析出による死亡例報告あり)。

すべての場面で鼓膜切開の適応を検討する条件: 高度の鼓膜膨隆所見がある場合/適切な抗菌薬治療を行っても鼓膜異常所見が改善しない、あるいは悪化する場合。鼓膜切開が可能な耳鼻咽喉科医との連携が必要(推奨の強さ: 推奨、エビデンスの質: C)。

  • 体重換算の考え方(個別処方値は書かない):
  • AMPC(アモキシシリン): 高用量が第一選択の中心。1回あたり・1日あたりの上限(GL規定の投与量上限): 1回45mg/kg、1日90mg/kgを超えない。通常量(45mg/kg/日)ではなく高用量(80〜90mg/kg/日相当)とする根拠が本邦の肺炎球菌・インフルエンザ菌の薬剤耐性率にある。
  • CDTR-PI: 1回200mg、1日600mgを超えない。
  • TBPM-PI: 1回300mg、1日600mgを超えない(中等症・重症のみ、投与期間は7日以内を目安)。
  • TFLX: 1回180mg、1日360mgを超えない。
  • 抗菌薬投与時の下痢予防として耐性乳酸菌や酪酸菌製剤の併用を選択肢とする(GL根拠は抗菌薬投与時のみ。非投与・経過観察時への適用はGL記載なし)。
  • 段階移行の考え方: 上記アルゴリズムの段階的なステップアップを参照。抗菌薬投与後に臨床症状が悪化する場合は抗菌薬の変更を考慮。
  • 抗菌薬選択の前に必ず確認:
  • 薬剤アレルギー歴(薬剤名・反応内容)。βラクタム系(ペニシリン系・セフェム系)アレルギーの既往がある場合は当該系統薬(AMPC・CVA/AMPC・CDTR-PI・TBPM-PI・ABPC・CTRXなど)を使用しない(GL2024 p.36 表13/p.56 CQ3-1 例外規定)。
  • やってはいけない/非推奨:
  • 耳痛(鎮痛)のみを目的とした抗菌薬投与は推奨しない(鎮痛薬としてはacetaminophen 10〜15mg/kg頓用が選択肢)。アスピリンは、水痘・インフルエンザ等のウイルス性疾患罹患時にライ症候群のリスクがあるため15歳未満には投与しないことを原則とする(出典: PMDA使用上の注意改訂情報 平成10年12月24日指示分, 確認日 2026-09-25)。保護者説明資料に明記するかどうかは当院判断。
  • 抗ヒスタミン薬は急性中耳炎に無効であり投与しない(推奨の強さ: 強い推奨、エビデンスの質: A)。発熱児への不要な抗ヒスタミン薬投与は小児急性脳症のリスクとの関連が指摘されており特に避ける(GL2024 p.73-74 CQ3-7)。
  • 鼓膜穿孔のない症例への点耳薬使用(無効であり非推奨)。点耳薬は鼓膜換気チューブ留置など中耳腔に薬液が十分到達可能な症例にのみ推奨。点耳薬を選択する場合でも、アミノグリコシド系・抗真菌薬含有製剤は内耳毒性(不可逆的感音難聴のリスク)のため使用しない(GL2024 CQ3-6 p.72 註)。
  • CDTR-PI・TBPM-PIなどピボキシル基を有する抗菌薬の使用時は、二次性低カルニチン血症の発症に十分注意する。特に経口摂取不良・絶食時間延長のある児で低血糖・低カルニチン血症のリスクが高く、投与開始翌日からの重篤な低血糖発症例も報告されている(PMDA「ピボキシル基を有する抗菌薬投与による小児等の重篤な低カルニチン血症、重篤な低血糖について(続報)」2026年6月30日付。2019〜2026年5月で23例集積、死亡等の不可逆的転帰例あり)。意識障害・活気不良・けいれん等の低血糖症状に注意し、保護者にも説明する。

6再診・帰宅指導・保護者説明

  • 再受診すべきサイン(保護者に伝える):
  • 耳痛・不機嫌の悪化、38.5℃以上の発熱の遷延・再燃
  • 耳漏の新規出現・増加
  • 耳介後部の腫脹・発赤、耳介の前方偏位(乳様突起炎を疑う)
  • 顔面の左右差・動きの左右差(顔面神経麻痺を疑う)
  • 物が二重に見える・目の動きの左右差(外転神経麻痺、Gradenigo症候群を疑う。院内採用)
  • ぐったりする・活気がない・意識がぼんやりする、痙攣(低血糖症状の可能性も含む。ピボキシル系抗菌薬使用時は特に注意)
  • 経過の見通し:
  • 軽症は抗菌薬非投与で3日間経過観察 → 多くは自然軽快。改善なければ抗菌薬開始。
  • 中等症・重症は抗菌薬開始後3〜4日目に病態の推移を観察し、改善の有無で次段階を判断。
  • 治療効果判定は発症から3週間の時点での鼓膜所見(発赤・膨隆・肥厚・水疱形成・混濁・穿孔・中耳腔の貯留液・耳漏)の改善評価で行う。
  • 紹介・入院の閾値:
  • レッドフラグ(1章)に該当する場合は即日耳鼻咽喉科紹介、または救急対応。
  • 第三選択薬(TBPM-PI高用量・TFLX、または重症での静注抗菌薬)でも改善がない難治例。
  • 鼓膜切開の適応があるが院内で実施可能な体制がない場合。
  • 反復性中耳炎・遷延性中耳炎・難治性中耳炎(1章の定義参照)に該当し、鼓膜換気チューブ留置や免疫学的評価(血清IgG2値など)の適応検討が必要な場合。

7出典

※ 点数・GLは改定される。運用前に最新版を確認。

8臨床医が迷う場面

9耳が痛いと言われたら、その場で抗菌薬を始める?

まず鼓膜の膨隆・耳漏を確認し、発赤だけや耳痛だけで診断しない。年齢を含む重症度を採点する。軽症は鎮痛を行い3日間観察できるが、3日後に鼓膜を再評価できることが条件。中等症・重症は院内アルゴリズムで抗菌薬を開始し、鼓膜切開が必要かも同時に考える。

根拠:小児急性中耳炎診療ガイドライン2024(CQ3-3〜3-5、治療アルゴリズム)

10抗菌薬を飲んでも2日目に発熱していたら、すぐ変更する?

発熱だけで自動的に広域化しない。服薬量・回数・飲み残しや嘔吐を確認し、耳痛・機嫌と鼓膜所見の推移で判断する。国内GLの定期再評価は開始3〜4日目。改善が乏しければ重症度と培養を見直して次段階へ進む。症状が悪化すれば予定日を待たず再診し、耳後部腫脹や神経症状は緊急紹介する。

根拠:小児急性中耳炎診療ガイドライン2024(CQ3-3〜3-5、治療アルゴリズム)

11次の薬を選ぶ前に、培養や鼓膜切開をどう考える?

中等症・重症や治療不応では、採取可能な耳漏・中耳貯留液から原因菌と感受性を確認する。高度の膨隆がある、適切な抗菌薬でも鼓膜異常が改善しない・悪化する場合は鼓膜切開を耳鼻科と相談する。処方だけを繰り返さない。当直帯の培養提出・保管は既存の院内手順に従い、紹介が必要な児の搬送を遅らせない。

根拠:小児急性中耳炎診療ガイドライン2024(CQ3-3〜3-5、治療アルゴリズム)

12熱と痛みが取れても鼓膜の奥に液が残る。抗菌薬を延長する?

中耳貯留液だけが残ることはあり、急性炎症が改善していれば、それだけを理由に抗菌薬を延長・変更しない。耳痛・発熱・膨隆の再出現は急性中耳炎として再評価する。液の残存と聞こえ・言語発達を追跡し、3か月を超えて残る場合は聴力評価と耳鼻科相談を行う。

根拠:RCH Acute otitis media:残存する中耳貯留液

13抗菌薬の途中で下痢や食欲低下が出たら、どこで中止・相談する?

軽い軟便と、血便・強い腹痛・脱水・全身状態不良を区別する。後者や蕁麻疹、呼吸症状は直ちに診察し、原因薬の中止を含めて対応する。ピボキシル系薬では摂取不良に低カルニチン血症・低血糖が重なり得る。傾眠・活気低下・けいれんは薬を飲み切らせず、血糖を含めて緊急評価する。

根拠:PMDA:ピボキシル基を有する抗菌薬の低カルニチン血症・低血糖

14痛みがなくなったら治療終了?繰り返すときは?

抗菌薬は処方した期間を基本に、3〜4日目の診察で継続・変更・終了を医師が判断する。自己判断で残薬を次の発熱に使わない。再燃時には鼓膜を再診察し、前の感染の遷延か新たな感染かを考える。6か月で3回以上、または12か月で4回以上の反復例では、聴力や貯留液の経過も含め耳鼻科と相談する。

根拠:小児急性中耳炎診療ガイドライン2024(CQ3-3〜3-5、治療アルゴリズム)

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