1-27麻疹(はしか)
空気感染・院内で広げないことが最大の仕事
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次9項目
1ポイント
- 疑った瞬間に動線を止める。麻しんは空気感染するため、手洗いやマスクでは十分な予防ができない。
- 感染可能期間は発症の1日前から解熱後3日を経過するまで(修飾麻疹は発疹出現後5日を経過するまで)。
- 曝露後72時間以内ならワクチン、6日以内なら免疫グロブリンで発症を予防できる可能性がある。時刻を確定して急ぐ。
- 届出は「診断後直ちに」。臨床診断例(検査未実施)でも届出対象。
- 発疹出現後3日以内の採血ではIgMが偽陰性になりうる。陰性を否定の根拠にしない。
2鑑別のながれ
- 発熱+咳・鼻汁・結膜炎+二峰性の発熱→カタル期でいったん下降し発疹期に再上昇する→麻疹(ワクチン歴・流行状況・渡航歴を確認)
- 軽症で非典型(微熱・短い発熱・カタル症状なし・限局性の発疹)→ワクチン免疫が低下した者に多く、IgMが陰性になりやすい→修飾麻疹(PCRとIgG高値で診断)
- 発熱軽度、耳介後部・後頭部・頸部リンパ節腫脹→麻疹よりカタル症状が軽い→風疹
- 解熱してから発疹→カタル症状が乏しい→突発性発疹
3検査
- PCR/ウイルス分離:発疹出現後7日以内にEDTA血・咽頭ぬぐい液・尿の3点セット(できれば2点以上)を保健所を通して地方衛生研究所へ
- 麻疹特異的IgM抗体(EIA法):発疹出現後4〜28日に医療機関で。この2系統は並行して実施する
- 発疹出現後3日以内の採血ではIgMが偽陰性になりうる。日を改めて再検査し、急性期と回復期のペア血清をとる
- ペア血清の判定:急性期に比して回復期の抗体価が4倍以上の上昇で有意上昇(EIA法は2倍以上)
4処置・処方例
Rp. 1人免疫グロブリン製剤(曝露後発症予防) 1回15〜50 mg/kg 筋注 筋注
↑ このページの入口へ曝露から6日以内に投与すれば発症を予防できる可能性がある。筋注用製剤のみ麻疹発症予防に健康保険適用があり、静注用製剤は適用がない。院内在庫の有無を先に確認する
- 筋注用人免疫グロブリン製剤(濃度は採用品の添付文書で確認)を、1回15〜50mg/kg=—〜— 大腿外側広筋へ筋肉内注射
- 単回投与。曝露から6日以内に。血液製剤なので、免疫が無い/不十分な接触者にのみ使う
5麻疹疑い時の初動
- 受付段階で発疹の有無を確認し、疑いがあれば専用の別入口・個室動線へ誘導する
- 待合に戻さず個室管理体制へ(空気感染対策が可能な体制、可能なら陰圧室)
- 対応する職員を限定する(麻疹抗体陽性が確認されている者、または1歳以上での2回接種が記録で確認されている者)
- 免疫が不十分な者がやむを得ず対応する場合はN95マスクあるいはそれ以上の性能のろ過マスクを着用する
- 保健所へ直ちに届け出る
- PCR/ウイルス分離とIgM抗体を並行して検査に出す
- 接触者リストを作る(直接接触/2m以内/同一時間に空間を共有した者)
- 接触者のワクチン接種歴を記録で確認する(記録がなければ受けていないと考える。0歳での接種は回数に含めない)
- 免疫が無い/不十分な接触者へ72時間以内のワクチンまたは6日以内の免疫グロブリンを当院で速やかに実施する(期限が短いため保健所・かかりつけへは回さない。院内方針院内)
やってはいけない・落とし穴
↑ このページの入口へ- 外来で感受性者が麻疹患者と20分未満空間を共有した後に感染・発症した例が報告されている
- 臨床診断例(検査未実施)でも届出対象
6送る/持つ
- 帰宅軽症で経口摂取可能なら、院内感染対策ができる前提で対応しうる
- 入院肺炎・脱水は入院。空気感染隔離ができる施設かを確認してから送る
- 搬送・紹介重症肺炎や脳炎などの重症例は感染症指定医療機関での診療が望ましい、免疫不全者・妊婦の麻疹は重症化しやすく専門施設へ
7診療中の疑問と回答
- 発疹が出てからIgM陰性だった。隔離を解除してよい?
- 発疹出現早期はIgMが陰性となり得る。発症日、接触・渡航歴、ワクチン歴を確認し、保健所と検体の種類・再検を相談する。疑いが強い段階では単回陰性だけで一般待合へ戻さず、空気感染への対応を続ける。臨床診断時の届出も遅らせない。
根拠:JIHS 麻疹詳細版 / 厚生労働省 麻しんについて - 同居家族が曝露した。症状が出るまで待つ?
- 接触時刻、接種・罹患歴、年齢、妊娠・免疫不全をすぐ確認する。曝露後予防には時間制限があり、ワクチンや免疫グロブリンの適否を保健所・専門医と急いで判断する。免疫不全者などへ生ワクチンを安易に選ばず、来院方法も事前調整する。
根拠:JIHS 麻疹詳細版 / 厚生労働省 麻しんについて - 治療薬がないなら、解熱だけして自宅でよい?
- 脱水、呼吸状態、肺炎、意識変化やけいれんを評価する。重症化リスクや家庭での管理可能性に応じて入院を判断する。受診・搬送時も空気感染対策を事前連絡し、処置や病床調整を優先する。熱の推移だけで合併症がないと判断しない。
根拠:JIHS 麻疹詳細版 / 厚生労働省 麻しんについて
- 潜伏期・臨床経過は?
- 潜伏期通常10〜12日。カタル期2〜4日(38℃前後・コプリック斑)→発疹期3〜4日(39〜40℃に再上昇、耳後部→頸部→顔→体幹→上肢→下肢の順に広がる)→回復期7〜9日で解熱・色素沈着を残す。
- 曝露者はいつまで健康観察する?
- 接触から5〜21日間(免疫グロブリンを投与した場合は4週間まで)麻疹を発症する可能性がある。
- 肺炎・脳炎の頻度は?
- 肺炎は6%(乳児の死亡例の60%は肺炎に起因)、脳炎は1,000例に0.5〜1例(約60%は完全回復、25%に後遺症、致命率約15%)、中耳炎は約7%。
- 妊婦・免疫不全者が接触者にいたら?
- 麻疹含有ワクチンは接種不適当。直ちに麻疹抗体検査を実施し、抗体価が陰性または低い者(EIA法10.0未満/PA法1:64以下)は免疫グロブリン投与を検討する。
9家族への説明
麻疹(はしか)の可能性があります。この病気は空気を介してうつる力が非常に強く、マスクや手洗いでは防げません。他の患者さんと同じ場所で待てないので、個室でお待ちいただきます。熱がいったん下がってから再び上がり、発疹が出るという経過をとります。発症の1日前から、熱が下がって3日経つまでは人にうつします。ご家族やまわりに、麻疹にかかったことがなく予防接種も受けていない方がいたら、接触から72時間以内なら予防接種で、6日以内なら注射で発症を防げる可能性があるので、すぐに教えてください。登園・登校は、熱が下がってから3日経つまで休みます。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。