10-3顔面神経麻痺
中枢性か末梢性か・Bell麻痺かハント症候群か
β版 · 紙面の最終確認 2026-10-30
日付は紙面の確認日です。院内承認を示すものではありません。処方・運用は、本文の適用条件と出典、院内の採用薬・手順を確認してください。
このページの目次7項目
1ポイント
- 圧倒的多数は末梢性。最初の分岐は中枢性か末梢性か:末梢性は顔面片側の上部・下部とも動かせなくなるが、中枢性(脳卒中・腫瘍)は主に顔面下部の筋力低下で前額部は侵されず額のしわ寄せができる。手や言葉にも異常があれば中枢性を最優先で外す。
- 原因はBell麻痺が約60%以上、ハント症候群が約20%(成人・耳鼻科領域データ)。小児(15歳以下302例)ではBell麻痺48%・Hunt症候群14%・耳炎性11%・外傷性11%・先天性8%で、中耳炎・外傷・先天性の割合が成人より高い。
- 早期に原因を評価し耳鼻科へつなぐ。小児Bell麻痺では3日を完治・後遺症の境界と断定しない。中枢性徴候を確認し、閉眼不全の角膜を保護する。
- 耳を打った直後からの麻痺は側頭骨骨折による緊急事態。当直帯はCTが撮れないので、確かめずに耳鼻科のある施設へ。
- 小児は治癒率も良好とされる(Bell麻痺で90%・Hunt症候群で78%が完全治癒、成人データとは別)。ただしこの数字は無治療下か治療後かが原典で確認できておらず、受診・治療開始を遅らせる根拠にはならない。
2鑑別のながれ
- 顔面麻痺+手足・言葉の異常(脱力・ろれつ・意識障害)→額のしわ寄せができる(前額部は保たれる)→中枢性(脳卒中・腫瘍)(持てない・画像・脳神経内科へ)
- 顔面麻痺+発熱・意識障害・項部硬直→髄膜刺激徴候を伴う→細菌性髄膜炎(持てない)
- 耳を打った直後からの麻痺→側頭骨骨折。受傷直後の発症は重症を示唆→外傷性麻痺(CT。持てない。耳鼻科)
- 誘因なく突然の片側顔全体(上下とも)の麻痺→麻痺の前に耳周囲痛・味覚異常が先行することがある→Bell麻痺(早期に耳鼻科紹介、3日以内が目安)
- 顔面麻痺+耳介・外耳道の水疱・発赤→難聴・耳鳴り・めまいを合併しやすい→ハント症候群(自然治癒30%。Bell麻痺の自然治癒70%より予後が悪い。早期に耳鼻科)
- 中耳炎の診断・耳漏がある乳幼児の顔面麻痺→急性中耳炎による顔面神経麻痺は成人より小児に多い→耳炎性麻痺(骨破壊がなければまず保存的治療。耳鼻科と相談)
- マダニ刺咬歴・野山への外出歴+両側性の顔面麻痺→流行地は本州中部以北(特に北海道)→ライム病(血清診断を相談)
- 出生時から顔の非対称に気づいていた(急性発症でない)→啼泣時にはっきりする、成長とともに目立ってきた→先天性顔面神経麻痺(Möbius症候群等)。緊急性は低いが小児神経科・耳鼻科でのフォローへ
3検査
- 額のしわ寄せができるか(できる→中枢性を疑う所見、できない→末梢性が示唆される)
- 乳児は安静時には目立たないため、啼泣時の顔の左右差で評価する
- 閉眼(兎眼の有無)。閉じきれなければ角膜保護(点眼・眼帯)を検討
- 耳介・外耳道の水疱・発赤(ハント症候群)、鼓膜の発赤・膨隆・耳漏(耳炎性麻痺)
- 味覚・涙・聴覚過敏の問診(あれば膝神経節より近位の障害が示唆される)
- 血液検査(血算・炎症反応・血糖)は全例。血算で白血病など随伴疾患も除外
- 頭部/側頭骨CT・MRIは外傷後・中枢性疑い・緩徐発症で考慮。当直帯は撮れないため、適応があると判断した時点で送る
- 麻痺の範囲は撮影せず、所見をスケッチ・文章で診療録に記録する
4紹介の目安
- 搬送・紹介中枢性疑い:持てない・画像・脳神経内科/脳外科へ、細菌性髄膜炎疑い:持てない、典型的Bell麻痺:耳鼻科紹介(3日以内が目安)、ハント症候群疑い:早期に耳鼻科紹介、耳炎性麻痺:骨破壊なければ保存的治療、耳鼻科と相談、外傷性麻痺(側頭骨骨折疑い):CT。持てない。耳鼻科(受傷直後発症は緊急手術もありうる)、真珠腫性中耳炎による麻痺:持てない。手術(鼓室形成術)が前提
5診療中の疑問と回答
- Bell麻痺らしいので成人と同じステロイドをすぐ出す?
- 小児では自然回復が多く、ステロイドの利益は成人と同程度には確立していない。耳痛・水疱、中耳炎、外傷、他の神経所見を評価して原因を分ける。当院では開始判断を耳鼻科へ委ねる方針を守り、成人レジメンをそのまま転用しない。
根拠:RCH 顔面筋力低下・Bell麻痺(海外小児指針) - 目が閉じないが、顔の麻痺が治るまで待つ?
- 閉眼不全では角膜障害を防ぐケアが必要。痛み、充血、見え方を確認し、潤滑・夜間保護の方法を眼科や耳鼻科と相談する。角膜痛や視力変化があれば評価を急ぐ。全身薬の開始可否が決まるまで眼の保護を保留しない。
根拠:RCH 顔面筋力低下・Bell麻痺(海外小児指針) - 再発する顔面麻痺も同じBell麻痺と扱ってよい?
- 反復、両側性、進行性、他の脳神経・四肢所見を伴う場合は別原因を再評価する。頭痛、歩行障害、全身症状や外傷歴を確認し、耳鼻科・小児神経へ相談する。顔面だけの所見や額の動き一つに頼らず、全身神経診察を行う。
根拠:RCH 顔面筋力低下・Bell麻痺(海外小児指針)
- 額のしわ寄せができれば安心?
- 逆。できる=中枢性を疑う所見。末梢性は前額部も動かせずしわ寄せができない。
- ハント症候群とBell麻痺はどちらが治りにくい?
- ハント症候群。自然治癒30%はBell麻痺の自然治癒70%より予後が悪く、早期に耳鼻科へ。
- 顔の写真を撮って耳鼻科への紹介に添えていい?
- 撮影しない。所見はスケッチ・文章で診療録に記録し、発症時刻を明記して送る。
- 当院でステロイド・抗ウイルス薬を始めていい?
- 始めない。耳鼻科紹介まで開始せず、開始判断は耳鼻科医に委ねる。
7家族への説明
顔の片側が動きにくくなっています。多くは顔面神経という、顔の筋肉を動かす神経に炎症が起きて生じる麻痺で、ウイルスが関わっていることが多いとわかっています。まず確認したいのは、これが顔だけの問題か、それとも脳の病気のサインではないかということです。手や言葉に異常がないかも合わせて診ています。原因を確定し、できるだけ早く治療を始めるために、耳鼻咽喉科への受診が必要です。治療の開始が早いほど、跡を残さずに治る可能性が高くなるとされています。目が閉じにくいときは、乾燥や傷を防ぐために、目を潤す点眼薬や、寝るときの眼帯が必要になることがあります。
一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。