8-6 赤ちゃんの股関節の検査(発育性股関節形成不全)

緊急

8-6赤ちゃんの股関節の検査(発育性股関節形成不全)

病態・根拠
このページの目次12項目

1要点(3行)

  • 最重要所見は開排制限(開排70度以下、または床から20度以上)。クリックサイン単独は非特異的で、頻回・強制的な誘発操作は骨頭を傷める危険があるため避ける[1][3]。
  • 一次健診(生後3-4か月)は開排制限陽性、または皮膚溝非対称・家族歴・女児・骨盤位分娩の4項目中2項目以上陽性で整形外科二次検診へ紹介する(紹介率の目安は10〜15%)[1][2]。
  • 超音波はGraf法でα角(骨性臼蓋の被覆)とβ角(軟骨性臼蓋の形態)を計測して評価する。X線は骨頭核出現後(生後4〜6か月頃、被曝も考慮)が有用で、それ以前は超音波が優位[2][4]。

2いつ使う・いつ使わない(適応/非適応)

  • 使う(適応):
  • 一次健診(3-4か月健診)で開排制限陽性、または皮膚溝非対称・家族歴・女児・骨盤位分娩の4項目中2項目以上陽性の児 → 整形外科二次検診(超音波±X線)へ紹介[1][2]
  • 骨盤位分娩児(経腟・帝王切開問わず。特に両膝伸展位となる単殿位はハイリスク)は上記チェック項目とは別に、リスク因子として能動的に股関節所見を確認する[2]
  • 生後3か月未満〜骨頭核出現前の乳児で、身体所見のみでは判断がつかない・経過観察中の評価をしたい場合(骨性ランドマークがまだ乏しくX線での評価が難しい時期に超音波が有用)[2][4]
  • リーメンビューゲル治療中のフォローアップ(整形外科で実施。骨頭核が成熟する生後10〜12か月頃まで超音波が使える)[4]
  • 使わない・過剰になりがち:
  • クリックサイン単独陽性のみ(開排制限なし・皮膚溝正常・リスク因子なし)で反射的に二次検診へ紹介すること。クリックは非特異的所見であり、過剰紹介・保護者の不安を招きやすい。ただし家族が強く心配する場合は紹介を妨げない[1][3]
  • Ortolani/Barlow法を検査目的で頻回・力任せに繰り返すこと。骨頭傷害のリスクがあり、1回の診察で愛護的に行う[3]
  • 生後10〜12か月を超えて骨頭核が成熟した後の超音波単独評価(この時期以降は腸骨下端などの骨性ランドマークが描出困難になり、X線に評価の主体が移る)[4]
  • 男児で左右対称に軽度の開排制限がある場合を機械的に陽性扱いすること(男児は女児より股関節が硬く、対称性の軽度制限は正常範囲のことがある。左右差の有無を必ず確認する)[1][2]

3実際(読み方・基準値・手技・スケジュール等)

2-1. リスク因子

因子補足
女児男女比はおよそ1:5〜9。関節弛緩性・骨格構造上の影響[2]
骨盤位分娩経腟・帝王切開時の肢位を含む。単殿位(両膝伸展位)は特にリスクが高い[1][2]
家族歴母・祖母・姉妹・叔母・従姉妹など(出典[2]の例示どおり)。特に母親と姉など複数の家族歴がある女児は要注意。出典の例示は母方に偏るが「同一家系内の股関節疾患」が本旨のため、問診では父方の家族歴も聴取対象から外さない[2]
左側DDHは左側に多い。右向き癖(顔面が右を向く)の児が多く、向き癖反対側(左)の開排制限と関連する例が多いことと符合する[2]
向き癖半数以上の乳児にみられる生理的な所見。ただし向き癖反対側の下肢が立て膝肢位となり開排制限を生じることがあるため、向き癖自体でなく開排制限の有無を確認する[2]
季節秋冬出生児は下肢を伸展位で衣服にくるまれやすく、発生率が高いとの報告がある[2]

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2-2. 身体所見(一次健診・生後3-4か月)

  1. 開排制限(★最重要所見):仰臥位で骨盤を水平にし、股関節・膝関節を90〜100度屈曲してやさしく開く。開排角度70度以下(または床からの角度20度以上)を陽性とする。無理に開かない(骨頭損傷のリスク)。特に向き癖反対側の開排制限、左右差に注意する[1][2]。
  2. 大腿皮膚溝・鼠径皮膚溝の非対称:深く・長く、大腿内側から後面まで達する左右差を陽性とする。浅く短い皺の左右差は正常でもよくみられるため、非対称と判定しすぎない(偽陽性が多い項目)[1][2]。
  3. Allis徴候(脚長差):仰臥位で両膝を立て、両踵を床につけて両膝の高さの差をみる。脱臼側で短縮がみられる[1][2]。
  4. クリックサイン:開排時に骨頭が臼蓋を出入りする感触。脱臼股全例でみられるわけではなく非特異的。強く・繰り返し誘発しない[1][3]。
  5. Ortolani徴候/Barlow徴候(主に新生児期〜二次検診で整形外科医が実施):Ortolani(脱臼・亜脱臼した骨頭を愛護的な外転で整復する手技)が臨床的意義が最も高く、Barlow(安定した骨頭を内転して脱臼・亜脱臼を誘発する不安定性テスト)はそれより意義が低い。いずれも愛護的に、後方への圧を加えずに行う[6]。

2-3. 二次検診への紹介基準

  • 開排制限陽性 単独 で紹介
  • または、①皮膚溝非対称、②家族歴、③女児、④骨盤位分娩の4項目中 2項目以上 陽性で紹介
  • 紹介率の目安は健診児全体の10〜15%[2]

2-4. Graf法エコー(二次検診・整形外科で実施)

  • 体位:真の側臥位、股関節を軽度屈曲・軽度内旋位。プローブは股関節外側から体軸に平行に当て、長軸走査(側方長軸走査)を行う[5]。
  • 標準画像(standard plane)の3要件:①腸骨下端が高エコーの輝点として描出される、②腸骨外縁の線状高エコー像が走査面に平行に描出される、③関節唇(labrum)が明瞭に描出される。この3条件を満たさない場合は体位やプローブ角度を疑い、それでも描出されなければ脱臼を疑う[5]。
  • 計測する角度:
  • α角(基準線と骨性臼蓋線のなす角)=骨性臼蓋の被覆・発達を反映
  • β角(基準線と軟骨性臼蓋線のなす角)=軟骨性臼蓋・関節唇側の形態を反映

Graf分類(要点)[4]

Type骨性臼蓋被覆α角β角対応の目安
Ia/Ib(正常発達)十分>60°Ia<55° / Ib>55°経過観察
IIa+(生後3か月未満・週齢相応)許容範囲50〜59°>55°経過観察
IIa-(生後3か月未満・週齢に対し未熟)不十分50〜59°>55°継続的な超音波経過観察(IIbへの移行に注意)
IIb(生後3か月以降・骨化遅延)不十分50〜59°>55°継続的な超音波経過観察
IIc(危険状態)不十分43〜49°70〜77°治療対象(整形外科紹介)
D(非求心性)相当不十分43〜49°>77°治療対象(整形外科紹介)
IIIa/IIIb(脱臼)貧弱<43°>77°治療対象(整形外科紹介)
IV(高位脱臼)貧弱計測不能なことが多い同上整形外科での精査・治療

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注:IIa+とIIa-の区別、および実際の治療開始基準・時期(Rb適応や手術適応の判断)は整形外科医の評価事項であり、本稿の対象を超える。上表は小児科外来での結果の見方の目安。α角・β角は「明らかに正常」「明らかに脱臼」の症例では計測不要で、境界域の判定に主に用いる[4][5]。

2-5. X線のタイミング

  • 骨頭核出現前は骨性ランドマークに乏しく評価が不正確になりやすいため、骨頭核出現後(目安:生後4〜6か月頃、超音波での核出現はX線より4〜6週早い)が評価に有用[2][4]。
  • 一方、臼蓋角自体は生後3か月以降から撮影・評価されることが多く、二次検診の実地運用では「生後3か月以降」を目安に骨盤正面像を撮影する施設が多い(骨盤の回旋がない正しい正面像であることが前提)[1][2]。
  • 判読項目:①骨頭核の位置(Y軟骨線の下・Ombrédanne線より内側が正常)、②Shenton線・Calvé線の連続性、③臼蓋角(30度未満が正常、30度以上は臼蓋形成不全)、④臼蓋の形態[1][2]。
  • 被曝:乳幼児股関節X線の被曝は概ね0.2 mGy程度で、プロテクター使用でさらに減少する(年間自然被曝量 約2.1 mSvと比較しても少ない、との記載が出典[2]にある)。※吸収線量(mGy)と実効線量(mSv)は本来異なる単位系であり厳密な数値比較ではないが、出典[2]原文がこの比較表現をそのまま用いているため、本稿もその趣旨(相対的に被曝は少ない)を踏襲して記載。ただし可能な限り被曝は避ける方針から、一次健診への超音波導入が進められている[2]。

4鑑別・拾える疾患/注意すべき病態

  • 臼蓋形成不全のみ(脱臼・亜脱臼は否定的):治療不要でX線または超音波での経過観察対象[1][2]
  • 亜脱臼・脱臼(Graf IIc以上、X線でShenton線・Calvé線途絶):整形外科での治療(リーメンビューゲル等)対象[1][2][4]
  • 神経筋疾患に伴う股関節異常(先天性多発関節拘縮症など):DDHとは逆に開排制限ではなく過開排・関節弛緩を呈することがあり、身体所見のパターンが異なる点に注意
  • 骨系統疾患に伴う臼蓋形成不全:家族歴が濃厚、または他部位の骨異常を伴う場合は単純なDDHとして経過観察せず精査を検討
  • 歩行開始後に発見される見逃し例:跛行、脚長差、片側性なら患側の骨盤挙上・腰椎前弯増強、両側性なら腰椎前弯増強(出っ尻)で気づかれることがある。日本小児整形外科学会Multi Center Study委員会による平成23年4月から2年間の全国実態調査では、歩行開始後に診断される例が年間100例近くあり、その多くが健診を受けていたにもかかわらず診断に至らなかった([1]p.2「この手引きを作成するに至った経緯」・[2]p.2 に同文の記載あり。原文は「約100例」でなく「100例近く」)[1][2]
  • 奇形性股関節脱臼(teratologic dislocation):神経筋疾患(脳性麻痺・二分脊椎など)に伴い出生前から固定性の脱臼を呈する別病態。通常型DDHと異なりPavlik/リーメンビューゲルへの反応が不良で、早期に整形外科的な手術適応判断を要することが多い。神経筋疾患による関節拘縮症(過開排を呈するもの)とは逆に、こちらは開排制限を呈する点に注意

5忘れがちポイント・落とし穴 ★

  • 開排制限が最重要所見 であることを常に軸に置く。クリック単独・皮膚溝の軽微な左右差だけで「所見あり」と判断しない一方、開排制限が陽性なら他の4項目が陰性でも単独で紹介する[1][2]。
  • クリック単独は非特異的。脱臼股全例でみられるわけではなく、正常股でも触れることがある。誘発を目的に強く・繰り返し操作しない(骨頭損傷リスク)[1][3]。
  • 骨盤位分娩は経腟・帝王切開を問わずスクリーニング対象。帝王切開だから安全というわけではなく、子宮内での肢位(特に単殿位=両膝伸展位)がリスクを規定する[1][2]。
  • 向き癖と開排制限を混同しない。向き癖自体は生理的で半数以上にみられるが、向き癖反対側の開排制限は生後1か月の児でもみられうる。「向き癖があるだけ」で済ませず、開排制限の有無を必ず確認する[2]。
  • 装具(リーメンビューゲル)は整形外科の管轄。小児科外来で装具適応や開始時期を判断・説明しすぎない。二次検診への紹介を遅らせない(診断・治療開始が遅れるほど整復率が下がる)[1][2][4]。
  • 見逃すと歩行開始後の跛行につながる。予防啓発と健診で発生数は激減したが「消滅した疾患ではない」。健診を受けていても見逃されている実例が全国で報告されており、「様子を見ましょう」で紹介を先延ばしにしない[1][2]。
  • 男児の左右対称な軽度開排制限は生理的なことがあるが、これは過少評価の言い訳に使わない。左右差がないかを必ず確認したうえでの判断とする[1][2]。
  • X線は骨頭核出現前は判断材料として不十分。生後早期に「レントゲンで異常なし」と安心せず、身体所見陽性なら超音波評価または整形外科紹介を優先する[2][4]。
  • 普遍的な超音波スクリーニングは国際的にも推奨されていない(米国小児科学会は身体診察による選択的スクリーニングを推奨し、全例超音波は推奨していない)。日本もリスク因子+身体所見による選択的アプローチが基本であり、「エコーで何でも拾う」という考え方ではない[6]。

6患者・保護者への説明(要点)

  • 「股関節の受け皿(骨盤側のくぼみ)が、まだ育ちが不十分なところに、骨の頭(大腿骨頭)がきちんとはまっていない、またははまりが浅い状態です」
  • 「足の開きが片方だけ悪い、または左右差があることが一番大事なサインです。おむつ替えのときの股の開きにくさ、太もものしわの左右差などがあれば教えてください」
  • 「今の時期はレントゲンよりも超音波(エコー)の方が、骨のでき始めの状態を詳しく見るのに向いています。レントゲンは骨がもう少し育ってから(生後4〜6か月頃)の方がよく分かります」
  • 「向き癖自体は多くの赤ちゃんにみられる自然なものですが、向き癖と逆側の足が開きにくくなることがあるので、コアラ抱っこ(縦抱きで両足をM字に開く抱き方)や、両足の動きを妨げない服装・おむつの当て方を心がけてください」
  • 装具(リーメンビューゲル)が必要になった場合は、整形外科で詳しい説明があること、治療は早いほど良好な経過が期待できることを伝える

7院内ローカルルール

  • 決定:リスク因子(骨盤位分娩・家族歴・臨床所見陽性)がある児に限り、目安月齢を定めてX線または超音波検査を行う(論点:X線オーダーのタイミング基準(院内での運用上の目安月齢))
  • 決定:産科から小児科への申し送りチェックリストに骨盤位分娩を明記し、生後早期にスクリーニングを行う運用を作る(論点:骨盤位分娩児への股関節スクリーニングの院内標準運用(産科からの申し送り経路を含む))

8出典(日本のGL優先・URL+版年)

  • [1] 日本整形外科学会・日本小児整形外科学会「乳児健康診査における股関節脱臼 一次健診の手引き」(平成27年度日本医療研究開発機構研究費 成育疾患克服等総合研究事業). https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/kenshintebiki.pdf (厚生労働省サイト掲載、2015年度作成分。運用前に最新版を要確認)
  • [2] 日本整形外科学会・日本小児整形外科学会「乳児健康診査における股関節脱臼二次検診の手引き」(平成29年度日本医療研究開発機構研究費). https://www.jpoa.org/wp-content/uploads/2013/07/180306.pdf (2018年3月版)
  • [3] 日本小児整形外科学会・日本整形外科学会「乳児股関節脱臼健診チェック項目と診断・治療の指針」. https://www.jpoa.org/wp-content/uploads/2013/07/20141012.pdf (2014年10月改訂版)
  • [4] 森知里, 山崎謙, 三枝聡ほか「先天性股関節脱臼に対する超音波検査の利用」昭和医学会雑誌 69巻2号:131-141, 2013(Graf分類・α角/β角の角度基準の詳細). https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsma/69/2/69_2_131/_pdf/-char/ja
  • [5] 「乳児股関節検診における超音波画像診断——DDHの病態をエコーで読み解く」INNERVISION 2021年6月号(東京女子医科大学八千代医療センター整形外科). https://www.innervision.co.jp/ressources/pdf/innervision2021/iv202106_036.pdf
  • Shaw BA, Segal LS; American Academy of Pediatrics Section on Orthopaedics. Evaluation and Referral for Developmental Dysplasia of the Hip in Infants. Pediatrics. 2016;138(6):e20163107は、AAP内部の文書区分としては「臨床報告(clinical report)」であり、2000年版のPractice Guidelineを正式に置き換える改訂ガイドラインではない(出典: Contemporary Pediatrics, 確認日 2026-09-25)。
  • [7] 日本小児整形外科学会 公開資料(発育性股関節形成不全のスクリーニングと早期予防パンフレット等、最新版はここから入手). https://www.jpoa.org/member/documents/ (改訂が随時入る資料のため、運用前に必ず最新版を確認)

9臨床医が迷う場面

10開排制限がないなら股関節脱臼を除外できる?

開排制限の有無だけでなく、皮膚溝の非対称、家族歴、女児、骨盤位など既定の危険因子を確認する。開排制限がある、または所定の危険因子が重なる場合は二次健診へ紹介する。痛がらないことや一度の正常所見だけで、その後の健診を省略しない。

根拠:日本小児整形外科学会 乳児股関節健診

11骨盤位だったが帝王切開で生まれた場合、リスクは消える?

帝王切開かどうかだけで骨盤位のリスクを除外しない。妊娠・出生時の情報を確認し、他の危険因子と合わせて二次健診の基準に当てはめる。紹介時は単に「健診異常」とせず、開排制限の左右差と該当する危険因子を具体的に記載する。

根拠:日本小児整形外科学会 乳児股関節健診

12予防のために脚をまっすぐ固定するよう説明してよい?

股関節と膝を伸ばして脚を閉じる姿勢の強制は避ける。自然な屈曲・開排を妨げない抱き方や衣服を説明する。外来で無理に開排したり、整復を試みたりせず、疑い例は専門評価へつなぐ。生活指導だけで紹介や画像評価の代わりにはしない。

根拠:日本小児整形外科学会 乳児股関節健診

一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。

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