1-3 かぜ症候群と抗菌薬適正使用

緊急

1-3かぜ症候群と抗菌薬適正使用

病態・根拠
このページの目次12項目

1一目でわかるフロー

受診(主訴:鼻汁・鼻閉・咳・咽頭痛・発熱などの「かぜ」様症状)
  → レッドフラグ評価(バイタル異常・気道緊急性・非典型経過は即・精査/上位施設紹介)
  → 気道症状の病型分類
      感冒・鼻副鼻腔炎 / 急性咽頭炎 / 急性気管支炎 / クループ症候群 / 急性細気管支炎
      +乳児は常に「尿路感染症・中耳炎」を鑑別に残す
  → 重症度・遷延性の判定(抗菌薬を検討すべき基準に合致するか)
  → 検査(原則不要。鑑別が必要な場合のみGAS迅速検査・尿検査・胸部X線などを選択)
  → 治療(大部分=抗菌薬を投与しない対症療法。GAS陽性咽頭炎/中等症以上の副鼻腔炎/
      一部の中耳炎など基準を満たす例のみ抗菌薬を検討)
  → 再診・帰宅指導(自然経過の説明+再受診すべきサインを保護者に明示)

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出典: 厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版」医科・外来編・ダイジェスト版の急性気道感染症診療フロー(成人・学童期以降編/乳幼児編)に準拠して構成[1][2]。

2レッドフラグ(見逃し厳禁)

「かぜ」を主訴に受診した患者で、以下のいずれかがあれば「ただのかぜ」判定を止め、精査・入院・上位施設紹介を検討する。

  • バイタルサインの異常(頻呼吸、意識障害、循環不全、低血圧)→ 敗血症・重症感染症を考慮[1][2]
  • 乳児の発熱でPAT(Pediatric Assessment Triangle)不良(呼吸障害・意識障害・循環不全)→ 重症感染症を考慮[2]
  • のどの症状で「人生最悪の痛み」「唾も飲み込めない」「開口障害」「嗄声」「呼吸困難」、または sniffing position/tripod position → 急性喉頭蓋炎・扁桃周囲膿瘍・咽後膿瘍・頸部膿瘍などの気道緊急疾患を考慮し、安全に気道確保できる施設への転送を速やかに決断する[1][2]
  • 突然発症の咽頭痛+嘔吐+咽頭所見が乏しい(特に成人・年長児)→ 急性心筋梗塞・くも膜下出血・頸動脈/椎骨動脈解離という非上気道疾患の除外を考慮[1]
  • クループ様の犬吠様咳嗽で、安静時にも吸気性喘鳴・多呼吸・起坐呼吸・陥没呼吸・酸素飽和度低下→ 細菌性気管炎・喉頭異物・アレルギー性喉頭浮腫など切迫する上気道閉塞を疑い気道確保を優先[2]
  • 咳主体の訴えで体温38℃以上/脈拍100回/分以上/呼吸数24回/分以上のいずれか1つ、または胸部聴診所見の異常→ 肺炎を疑い胸部レントゲンを含む精査へ[1][2]
  • 乳児の発熱で「かぜ症状に乏しい」「かぜ症状を伴わない」→ 尿路感染症・中耳炎を必ず鑑別に残す(乳幼児は局所症状が出にくく、発熱のみが唯一の手がかりのことがある)[2][7][8]
  • 感冒に引き続き、いったん軽快した後1週間ほどで再度の発熱や日中の鼻汁・咳の増悪が見られる「二峰性」の経過、または39℃以上の発熱+膿性鼻汁が3日以上続く重症感→ 急性鼻副鼻腔炎の遷延化・二次性細菌感染(副鼻腔炎、中耳炎、肺炎、尿路感染症、菌血症など)を考慮[2]
  • 川崎病(不全型を含む)は、日本川崎病学会「川崎病診断の手引き改訂第6版」(2019年5月)の6主要症状(発熱、両側眼球結膜充血、口唇・口腔所見、発疹、四肢末端の変化、非化膿性頸部リンパ節腫脹)のうち5症状以上、または4症状以下でも冠動脈病変を伴えば診断する。改訂第6版の主要症状「発熱」には持続日数の明記がなく、日数基準は診断の絶対条件ではない(出典: 日本川崎病学会「川崎病診断の手引き改訂第6版」2019年5月, 確認日 2026-09-25)。
  • 耳痛・不機嫆・耳漏を伴う発熱で、抗菌薬なしの経過観察2〜3日または抗菌治療2〜3日で局所・全身所見が改善しない→ 中耳炎の診断再検討、耐性菌・外科的ドレナージの適応を検討。耳介後部の発赤・腫脹・圧痛は乳様突起炎、項部硬直・意識障害・けいれん・"not doing well"は髄膜炎を疑う[2]
  • 咳が3週間以上遷延する→ 百日咳・マイコプラズマ・非感染性疾患(気道異物、喘息など)の鑑別を追加する[2]
  • 生後3か月未満(特に28日未満の新生児)で38.0℃以上の発熱がある場合は、原則入院のうえ血液培養・尿検査(必要に応じ髄液検査)を含む精査を行う。AAP2021臨床実践ガイドラインは生後8〜60日の健常発熱乳児を対象とし、「生後1週間の乳児は疾患の頻度・種類が十分異なる」として意図的に対象外としており、28日未満(新生児)は29日〜3か月未満よりも厳格に扱う(出典: Pantell RH, et al. Pediatrics. 2021;148(2):e2021052228, 確認日 2026-09-25)。
  • 新生児期(特に生後1か月未満)は「発熱」ではなく「低体温(体温不安定)・哺乳不良・活気不良」でも重篤な細菌感染症のサインになりうる。体温異常の方向(高い/低い)を問わず精査対象とする[10]
  • かぜ様症状(特にウイルス性感染)に続いて元気がない・嘔吐が続く・顔色不良・頻脈や不整脈・肝腫大/浮腫があれば心筋炎を鑑別に残し、心電図・胸部X線・心エコー・循環器科紹介を検討する。心筋炎はウイルス性かぜ様症状に続発し「胃腸炎」等と誤診されたまま循環不全・心原性ショックに進行しうる見逃されやすい重篤疾患である[11]
  • 活気低下・尿量減少・大泉門陥没・啼泣時の涙の消失・皮膚ツルゴール低下などの脱水徴候があれば、経口補液の可否と点滴・入院加療の要否を検討する[15]

3重症度・病型の判定

厚労省手引きは急性気道感染症を、年齢・症状・身体所見から次の病型に分類することを推奨している[1][2]。

成人・学童期以降の小児

病型鼻汁・鼻閉咽頭痛咳・痰
感冒△△△(3系統が「同時に」「同程度」存在)
急性鼻副鼻腔炎◎△△
急性咽頭炎×◎×
急性気管支炎××◎

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(◎=主要症状、△=他症状と併存する程度、×=症状なし〜軽症)[1]

  • 感冒: 発熱の有無を問わず、鼻症状・咽頭症状・下気道症状の3系統が同時に同程度存在する病態[1]
  • 急性鼻副鼻腔炎の重症度分類(成人向けの点数式):鼻漏0-1-2点・顔面痛/前頭部痛0-1-2点・鼻腔所見〈鼻汁・後鼻漏〉0-2-4点の3項目、合計最大8点で採点し、軽症1〜3点/中等症4〜6点/重症7〜8点と判定する[1]。学童期以降の小児にはこの点数式を用いない。小児(学童期以降・乳幼児とも)は点数化せず、以下いずれかに該当すれば「遷延性又は重症」と判定する: (1) 10日間以上続く鼻汁・後鼻漏や日中の咳、(2) 39℃以上の発熱と膿性鼻汁が3日以上続き重症感がある、(3) 感冒後1週間で再増悪する二峰性経過[1][2]

決定=スコア配点(鼻漏0/1/2・顔面痛/前頭部痛0/1/2・鼻腔所見0/2/4、合計最大8点)は手引き第四版p.28 表3と完全一致することを確認し、配点自体はそのまま確定した。あわせて反証で確認できた2点を修正した:(1) 原文は表3の点数式に「成人では軽症※1」「成人では中等症又は重症※1」という脚注のみを付けており、学童期以降の小児の判定には表4(点数化しない定性基準)だけを使う構造で、点数式を子どもに適用する記述は原文のどこにもないため「学童期以降の小児にはこの点数式を用いない」と明記した。(2) 旧記載の「遷延性・重症・慢性」の「慢性」は原文に存在せず、表4(学童期以降)・乳幼児編(p.60-61)とも判定基準の文言は「遷延性又は重症と判定する」の2区分のみのため削除した(出典: 手引き第四版p.28 表3・表4、p.60-61)。

未確認:学童期以降の小児・成人の抗菌薬用量をmg/kgで本文に追記するかは、当直帯での実際の処方頻度を踏まえた当院の臨床判断待ち(手引きは20〜40mg/kg/日・上限90mg/kg/日をアモキシシリン7〜10日間投与の根拠として引用しているが、乳幼児編の30〜50mg/kg/日と数値が異なり、両者を並記すると当直での取り違えリスクが残る)。乳幼児編(p.60-61)の判定基準にある4番目の条件(化膿性中耳炎・細菌性肺炎・尿路感染症・菌血症等の合併症)は本シートに未反映(今回の決定の対象外・別途要判断)。

乳幼児(生後3か月以降〜小学校入学前)

年齢・症状・身体所見をあわせて、感冒・鼻副鼻腔炎、咽頭炎、クループ症候群、気管支炎、細気管支炎に分類する。乳幼児は訴えが不確かなため成人と同じ分類は使えず、多くは自然軽快するウイルス性疾患だが、抗菌薬の適応となる細菌性咽頭炎(GAS)・細菌性副鼻腔炎・中耳炎の鑑別と、尿路感染症・重症感染症を示唆するRed flagの見極めが重要[2]。

病型好発年齢の目安臨床的特徴
感冒・鼻副鼻腔炎全年齢鼻汁・咳嗽を同程度に認める
咽頭炎全年齢咽頭に限局した所見・症状
クループ症候群乳幼児〜学童早期犬吠様咳嗽、吸気性喘鳴
気管支炎全年齢咳嗽を主体とした症状
細気管支炎2歳未満鼻汁・咳嗽から呼吸性喘鳴へ

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(好発年齢の相対的な山は文献の図を言語化したもの。詳細分布は出典[2]の原図を参照)[2]

4検査

  • 必要(該当する場合のみ):
  • GAS迅速抗原検査または培養: 急性咽頭炎の症状・徴候があり急性GAS咽頭炎が疑われ、身体所見(突然発症・発熱・頭痛・嘔気嘔吐・腹痛・前頸部圧痛を伴うリンパ節腫脹・猩紅熱様皮疹)を有し、3歳以上(周囲流行時はその限りではない)の場合[1][2]
  • 胸部レントゲン: 咳主体の訴えでバイタルサイン異常(体温38℃以上/脈拍100回/分以上/呼吸数24回/分以上のいずれか)または胸部聴診所見の異常があり肺炎を鑑別したい場合[1][2]
  • 鼓膜所見の確認: 発熱・耳痛・不機嫌を伴う場合の中耳炎診断(診断は鼓膜所見が必須)[2]
  • 尿検査: 乳児の発熱で「かぜ症状に乏しい/かぜ症状を伴わない」場合の尿路感染症の除外[2][7][8]
  • 川崎病を疑う所見(1参照)がある場合の血液検査・心エコー(冠動脈評価)[3][4]
  • 不要・過剰になりがち:
  • 単純な感冒(鼻汁・軽い咳・全身状態良好)へのルーチンの血液検査・胸部X線・咽頭培養[1][2]
  • GASの症状・徴候に乏しい(結膜炎・咳嗽・嗄声・鼻汁・筋肉痛・下痢が主体=ウイルス性咽頭炎を示唆する所見)症例へのGAS迅速検査の反復[1]
  • 全身状態良好・中耳由来の耳漏がない急性中耳炎への、抗菌薬適応判断以上の追加画像検査[2]

5治療

抗菌薬適正使用の基本方針: かぜ(ウイルス性上気道炎)の大部分には抗菌薬を投与しない。抗菌薬を検討するのは、病型ごとに定められた基準(GAS陽性、中等症以上の副鼻腔炎、重症化リスクのある中耳炎など)を満たす場合に限る[1][2]。

病型別

  • 感冒(狭義): 抗菌薬投与は不要である。対症療法(解熱鎮痛剤)と経口補液の指導が中心。アセトアミノフェンは頓用10〜15mg/kg/回、4〜6時間以上の間隔をあけ、1日最大60mg/kgという体重換算の考え方が示されている(個別処方値は別途決定)[2]。以下をすべて満たす時点では抗菌薬は不要と判断できる: 鼻汁のみ/鼻閉±発熱±軽い咳/呼吸障害なし/全身状態良好/発熱3日以内/鼻汁10日以内/湿性咳嗽10日(2週間)以内。逆に、10日以上続く膿性鼻汁・後鼻漏や日中の咳、39℃以上+膿性鼻汁が3日以上続く重症感、感冒後1週間での再増悪のいずれかがあれば抗菌薬投与を検討する(成人・学童期以降はアモキシシリン内服7〜10日間、乳幼児では30〜50mg/kg/日 分3(例15mg/kg/回)7〜10日間経口投与、最大90mg(力価)/kg/日を超えないという体重換算の考え方が示されている=下限・上限とも第四版で確認済み、旧記載の単一値40mg/kg/日から修正)[1][2]
  • 急性鼻副鼻腔炎: 抗菌薬投与を検討するのは、成人は点数式(表3・2.参照)で中等症以上、学童期以降の小児は点数式を使わず、点数化しない定性基準(表4・2.参照)で「遷延性又は重症」に該当する場合のみ。それ以外(軽症〜非該当)には投与しない。該当する場合、成人はアモキシシリン内服5〜7日間、学童期以降の小児は7〜10日間という体重換算の考え方が示されている[1]
  • 急性咽頭炎: GASを除く急性咽頭炎に抗菌薬は投与しない。GAS迅速検査または培養でGAS陽性の場合のみ、アモキシシリン30〜50mg/kg/日(最大1,000mg/日)分2〜3、内服10日間という体重換算の考え方(成人・学童期以降の基本は内服10日間)[1][2]。重度のペニシリンアレルギー(アナフィラキシー等の既往)がある場合: クリンダマイシン15mg/kg/日 分3(例5mg/kg/回 1日3回)10日間経口投与という体重換算の考え方が示されている[2]
  • クループ症候群: 軽症では治療不要。安静時の吸気性喘鳴があればアドレナリン吸入やデキサメサゾン内服(0.15〜0.6mg/kg/回という体重換算の考え方)。発熱・咽頭痛にはアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛剤。ほとんどがウイルス性であり抗菌薬の適用はない[2]
  • 百日咳に対する抗菌薬治療について、電子添文上の適応症はエリスロマイシン・クラリスロマイシンが百日咳を含む一方、アジスロマイシンのみ適応症に百日咳を含まないが、社会保険診療報酬支払基金の公表によれば保険審査上は使用が認められている(出典: 東京都小児科医会「百日咳におけるアジスロマイシンの取扱いについて」第4報 2025年12月26日, 確認日 2026-09-25)。
  • 急性細気管支炎: 有効な治療法はなく、呼吸状態に応じた全身管理が中心。抗菌薬は不要。RSウイルスが重症化に最も関与し、新生児・乳児期早期・未熟児・先天性心疾患・慢性肺疾患・免疫不全では呼吸障害が強く入院を要することが多い。生後3か月未満(特に若年乳児)は多呼吸・陥没呼吸・低酸素血症といった典型的な呼吸窮迫所見に乏しくても、無呼吸の既往・目撃があれば入院を強く検討する(非典型例の見逃し防止)[2][12]
  • 急性中耳炎: 全身状態が良く中耳由来の耳漏がない場合は、保護者に説明のうえ抗菌薬を投与せず2〜3日の経過観察(軽症例の4分の3以上は1週間で自然治癒)。以下のいずれかがあれば抗菌薬投与を検討: 中耳由来の耳漏がある/重症化リスクファクター(2歳未満、免疫不全などの基礎疾患、肺炎球菌ワクチン未接種、中耳炎の既往歴、医療アクセス不良)がある/発熱・不機嫌・耳痛を伴い発赤と膨隆を伴う鼓膜所見がある。アモキシシリン60〜90mg/kg/日 分3(例30mg/kg/回、90mg力価/kgを超えない)、初回投与を3〜4日間とし、総投与期間7日間を基本とする(院内方針 2026-09-25。全身状態が不変・悪化傾向なら3〜4日目に再評価し治療方針を見直す)。参考として米国小児科学会(AAP)GLは年齢別に2歳未満10日間・2〜5歳7〜10日間・6歳以上5〜7日間としているが、本邦手引きの推奨は上記の「7日間基本+個別化」であり、旧記載の「2歳未満10日間・それ以降5日間」はAAP基準の不正確な要約だったため訂正した[2]

やってはいけない・非推奨

  • ウイルス性上気道炎(感冒・ウイルス性咽頭炎・急性気管支炎・急性細気管支炎)への経験的抗菌薬投与[1][2]
  • 閉塞性気道疾患のない小児の急性咳嗽への気管支拡張薬(無効)[2]
  • インフルエンザ・水痘罹患時のアスピリン含有解熱鎮痛剤・総合感冒薬(急性脳症発症との関連が指摘されている)[2]。ジクロフェナクナトリウムはインフルエンザ罹患中の使用が厚労省通知により原則禁忌とされている(脳炎・脳症の重症化との関連が報告された経緯)[5]
  • 抗ヒスタミン薬(熱性けいれん・急性脳症発症との関連が指摘)[2]
  • ジヒドロコデインを含む鎮咳薬(呼吸抑制のリスク)[2]
  • テオフィリン製剤(急性脳症発症との関連が指摘)[2]
  • ロペラミド(6か月未満は禁忌、2歳未満は原則禁忌=腸閉塞の危険)[2]
  • ピボキシル基を有する抗菌薬(低カルニチン血症に伴う低血糖・けいれん・脳症のリスク)[2]
  • ST合剤・セフトリアキソン(低出生体重児・新生児では核黄疸リスクのため禁忌)[2]
  • フルオロキノロン系抗菌薬(一部薬剤は小児に投与禁忌=関節障害の懸念)[2]
  • テトラサイクリン系抗菌薬(8歳未満で歯牙着色のリスク)[2]

6再診・帰宅指導・保護者説明

抗菌薬を出さないことの保護者説明の型

厚労省手引きは「肯定的な説明を行うことが患者満足度を損なわずに抗菌薬処方を減らし、良好な医師−患者関係の維持・確立につながる」としており、3ステップの型を示している[1][2]。

1) 情報の収集 — 保護者の心配事・期待を先に引き出す。「今日一番心配なことは何ですか」「抗菌薬について何か聞きたいことはありますか」と積極的に尋ねる[2]

2) 適切な情報の提供 — 重要な情報を伝える。

  • 「ウイルス性の場合は対症療法が中心であり、完治までに時間がかかる」
  • 「抗菌薬は(このタイプの感染症には)効果がない。休養と水分・栄養が回復の中心」
  • 「抗菌薬を使うとお腹の中の良い菌まで一緒に減らしてしまうことがある」
  • 「急性気管支炎の場合、咳は4週間程度続くことがある」「急性下痢症は1週間程度続くことがある」
  • 「糖分・塩分の入った水分をこまめにとってください」
  • 「感染を広げないため手洗いを徹底し、タオルは家族で共有しないでください」

[2]

3) まとめ — やりとりを要約し理解を確認したうえで、具体的な再受診の目安を伝える。

  • 「3日以上経過しても改善しない場合は再受診してください」
  • 「日常生活に支障が出るほど悪化した場合は再受診してください」

[2]

再受診すべきサイン(保護者に伝える・本ワークフローの1.レッドフラグを平易な言葉に翻訳)

  • ぐったりしている、呼びかけへの反応が弱い、顔色や唇の色が悪い
  • 呼吸が速い・苦しそう(肩で息をする、鼻がぴくぴく動く、胸がベコベコ凹む)
  • 水分が摂れない、おしっこの回数が明らかに減った
  • 唾も飲み込めない、声がおかしい、息苦しそうに首を突き出している
  • 一度良くなりかけたのに、また熱が上がってきた・鼻水や咳がぶり返した(1週間前後で悪化)
  • 熱が3日以上続く、または5日以上熱が続き、目の充血・唇の腫れ・発疹・手足の腫れ・首のリンパの腫れが一緒に出てきた
  • 耳を痛がる、耳だれが出た、機嫌が非常に悪い
  • かぜらしい症状がないのに熱だけが続く(特に乳児)
  • (乳児の場合)頭のてっぺんの柔らかいところ(大泉門)がへこんでいる/泣いても涙が出ない[15]

経過の見通し

  • ほとんどのかぜ症候群はウイルス性で自然軽快する。急性気道感染症・急性下痢症の大部分は自然に良くなる[2]
  • 急性気管支炎の咳は4週間程度続くことがある[2]
  • 急性中耳炎の軽症例は4分の3以上が1週間で自然治癒する[2]

紹介・入院の閾値

  • レッドフラグ(1.参照)に該当する場合は精査または上位施設紹介
  • 気道緊急性を疑う所見(sniffing position/tripod position、安静時吸気性喘鳴、多呼吸、酸素飽和度低下)は速やかに気道確保できる施設へ搬送[1][2]
  • 新生児期発症のRSウイルス感染症は入院を考慮すべき。多呼吸・努力呼吸・低酸素血症などがあれば二次医療機関への紹介を検討。生後3か月未満は典型的な呼吸窮迫所見に乏しくても無呼吸の既往・目撃があれば入院を強く検討する[2][12]

7院内ローカルルール(愛育での運用)— 要確認

  • 外来でGAS迅速抗原検査キットを採用しているか、運用フロー(誰がオーダーし誰が実施するか)
  • 抗菌薬の院内採用薬・後発品の在庫状況(アモキシシリン製剤の剤形・規格)
  • 中耳炎の鼓膜所見評価を院内でどこまで行うか(耳鼻咽喉科への連携基準)
  • 気道緊急(急性喉頭蓋炎疑いなど)発生時の紹介・搬送先と当直帯の連絡動線
  • 川崎病を疑った場合の紹介先(循環器・小児科専門施設)と搬送手順
  • 尿路感染症を疑う乳児の採尿方法(カテーテル導尿の可否、外注検査の所要時間)
  • 保護者説明用の院内配布資料(説明文書・掲示物)の有無、多言語対応の要否
  • 当直帯・休日診療での本ワークフローの適用範囲(初診のみか、再診にも適用するか)

8出典

  1. 厚生労働省 健康・生活衛生局 感染症対策部 感染症対策課「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 医科・外来編」(令和8年1月16日公表): https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001630903.pdf 【2026-07-30訂正: 本ファイルは当初「第三版」本編(令和5年11月16日公表・https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001168459.pdf)を出典としていたが、既に第四版が公表済みのため差し替えた。第四版該当箇所(急性中耳炎の投与期間p.85-86、GAS咽頭炎代替薬、百日咳マクロライドの適応脚注等)をWebFetch/pdftotextで実際に本文照合し、数値・記載を更新済み】【2026-09-26追記: 急性鼻副鼻腔炎の重症度判定(p.28 表3・表4、p.60-61)をpdftotextで本文照合。最初に取得したPDFが「第四版(案)」=2025年9月19日付ドラフトだったため、確定版(令和8年1月16日発行、上記URL)で取り直して再照合した。ドラフトと確定版で表3・表4の内容・文言は一致(脚注番号のみ64→66等にずれ)】
  2. 同上「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 ダイジェスト版」(令和8年4月発行、国立健康危機管理研究機構 AMR臨床リファレンスセンター作成): https://amr.jihs.go.jp/pdf/MAS4_digest.pdf (成人・学童期以降編、乳幼児編を主に参照。急性気道感染症の病型分類・診療フロー・治療推奨・患者家族への説明の型はこのダイジェスト版に準拠)【旧版(第三版ダイジェスト・令和6年8月発行): https://amr.jihs.go.jp/pdf/20240725.pdf は参考として残すが本文の一次根拠としては使用しない】
  3. 日本川崎病学会「診断の手引き」改訂6版: https://www.jskd.jp/川崎病関連情報/診断の手引き/
  4. 国立成育医療研究センター「川崎病」: https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/030.html
  5. 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「インフルエンザの臨床経過中に発症した脳炎・脳症の重症化と解熱剤(ジクロフェナクナトリウム)の使用について」: https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/calling-attention/esc-rsc/0013.html
  6. 神戸大学大学院医学研究科 内科系講座小児科学分野 こども急性疾患学部門「3ヶ月未満の児の発熱への対応」第13回公開講座資料(2016年1月30日): https://www.med.kobe-u.ac.jp/pediat/pdf/iwatani13.pdf ※正式な学会ガイドラインではなく大学の教育公開講座資料。位置づけ・現行運用との整合は要本人確認([10]のMSDマニュアルと併せて本文格上げの根拠とした)
  7. 日本小児泌尿器科学会「小児の尿路感染」: https://jspu.jp/ippan_014.html
  8. なかのこどもクリニック「こどもの尿路感染症―『かぜっぽくないのに熱だけ続く』とき、小児科医が考えていること」: https://nakanokodomo.jp/column/198/ ※一般向け解説記事。一次資料ではなく補助的参照
  9. MSDマニュアル プロフェッショナル版「小児における尿路感染症(UTI)」: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-小児科/乳幼児および小児における様々な細菌感染症/小児における尿路感染症-uti ※国際的な専門家向け参考書。日本のGLではないため補助的参照

以下[10]〜[16]は敵対的検証(2026-07-30)で追加した出典

  1. MSDマニュアル プロフェッショナル版「新生児敗血症」: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-小児科/新生児における感染症/新生児敗血症 (低体温が敗血症のサインになりうる旨の記載。[6]神戸大学資料と併せ、生後3か月未満発熱・新生児低体温のレッドフラグ格上げの根拠) ※要本人確認
  2. 昭和医科大学病院 小児循環器・成人先天性心疾患センター「小児の心筋炎について」: https://phd-achd.jp/blog/449/小児の心筋炎について ※一般向け解説。急性心筋炎が当初胃腸炎様症状で発症し診断が遅れうる旨の一般的知見の参照として使用。要本人確認
  3. 済生会「RSウイルス感染症」: https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/rs-virus/ (3か月未満の乳児で無呼吸症状がみられうる旨の記載)※一般向け解説。要本人確認
  4. 日本小児科学会「小児COVID-19関連多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)診療コンセンサスステートメント」: https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/202105120_mis-c_st.pdf ※要本人確認
  5. 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会「生後2か月未満の乳児における重症百日咳の発症に関する注意喚起と治療薬選択について」(2025年6月22日): https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20250623_jyushouhyakunitizeki.pdf
  6. MSDマニュアル プロフェッショナル版「小児における脱水」: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-小児科/小児における脱水および輸液療法/小児における脱水
  7. 日本小児呼吸器学会・日本小児感染症学会「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022 百日咳に関する追補版」(2025年8月公表・Ver.1): https://www.jspid.jp/wp-content/uploads/2025/08/guide_bp_20250820.pdf /日経メディカル「小児呼吸器感染症診療ガイドライン、百日咳に関する追補版を公開」: https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/202508/589930.html (マクロライド耐性百日咳菌へのST合剤の位置づけを含む。院内の治療方針はこの追補版に合わせる)

※ 点数・GLは改定される。運用前に最新版を確認。[1][2]は2026-07-30に第三版→第四版へ差し替え済み(本ファイル内で実際に本文照合したのは中耳炎投与期間・急性咽頭炎代替薬・急性鼻副鼻腔炎小児用量・百日咳マクロライド適応脚注の各記載。上記以外の第三版由来の数値・記載は第四版と大きな相違が確認できなかったため据え置いたが、全項目の逐条突合は未実施=要本人確認)

9臨床医が迷う場面

10鼻水が緑色になったら抗菌薬を始める?

鼻汁の色だけで細菌感染とは判断しない。症状の長さと悪化の仕方、顔面痛、耳所見、呼吸状態を確認し、鼻副鼻腔炎・中耳炎・肺炎など病型ごとの基準で判断する。単純なかぜには抗菌薬を加えず、どの変化で再診するかを家族に具体的に伝える。

出典:AMR臨床リファレンスセンター 抗微生物薬適正使用第四版ダイジェスト

11抗菌薬を希望する家族には、どう説明して再診につなぐ?

今回の診察で重い感染の徴候がないことと、かぜに抗菌薬が効かず副作用があることを説明する。鎮痛、飲水など今できる対処を示し、呼吸苦、飲めない、反応低下、いったん軽快後の再悪化を再診条件にする。説明だけで終えず、家族が何を観察するか確認する。

出典:AMR臨床リファレンスセンター 抗微生物薬適正使用第四版ダイジェスト

12かぜとして数日見たが、よくならない。別の抗菌薬を試す?

先に診断をやり直す。発熱の持続、呼吸所見、耳・咽頭、尿路感染、川崎病の徴候などを確認し、必要な検査を選ぶ。元気がなく嘔吐と不釣り合いな頻脈があれば心筋炎も検討する。診断なしに薬を順番に変更するのではなく、新たな所見を基に対応する。

出典:AMR臨床リファレンスセンター 抗微生物薬適正使用第四版ダイジェスト

一般教育・院内オペ補助。個別診断・治療の代わりにはなりません。β版・逐条レビュー継続中。

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