2-1. 診療の基本フロー
JSPGHANガイドラインの診療フローチャートは以下の順で進む[図4-1/図8-1再掲][1]。
- 便秘の症状・病歴・身体所見を確認
- red flagsの有無を確認 → 陽性なら専門施設で基礎疾患検索
- red flags陰性なら、身体所見+必要に応じ画像検査でfecal impactionの有無を判定
- fecal impaction陽性ならdisimpactionを先行
- 生活・排便・食事指導+薬物治療(維持療法)を開始
- 経過良好なら治療継続→治癒、経過不良なら専門家にコンサルト
2-2. 診断基準(Rome IV)
Rome IVでは年齢で基準が分かれる。いずれも1か月以上、週1回以上の頻度で以下のうち2項目以上を満たす場合に機能性便秘と診断する(器質性疾患を示唆する所見がないことが前提)[3]。
| 乳幼児(発達年齢4歳未満) | 児童・思春期(発達年齢4歳以上) |
|---|
| 排便回数 | 週2回以下 | トイレでの排便が週2回以下 |
| 便失禁 | - | 週1回以上の便失禁 |
| 我慢姿勢 | 便貯留の既往 | 我慢姿勢・意図的な便の我慢の既往 |
| 排便時痛 | 痛みを伴う・硬い便の既往 | 痛みを伴う・硬い便の既往 |
| 便塊 | 直腸内の大きな便塊 | 直腸内の大きな便塊 |
| 便径 | 大径便の既往 | トイレを詰まらせるような大径便の既往 |
- Rome基準に合致しなくても、排便回数が少ない・排便に苦痛を伴う例は便秘と診断し治療対象としてよい[1]。
- 過敏性腸症候群(IBS)の基準を満たさないことも要件(IBS随伴の便秘型は別カテゴリー)[1]。
2-3. fecal impaction(便塞栓)の診断
以下のいずれかがあればfecal impactionを疑う(表8-1/表10-1)[1]。
- 腹部触診で便塊を触知
- 直腸指診で便塊を触知
- 画像上、直腸に便塊を認める
- いきんでいるが出ないとの訴え
- overflow incontinence(漏便)がある
- 少量の硬い便が出ている
- 最後の排便から5日以上経過
- 便性状評価にはBristol stool form scale(1=硬いコロコロ便〜7=水様便)が簡便で客観的[1]。
- overflow incontinence(漏便)を「下痢」「便失禁」「遺糞症」と別々に誤診しやすい点に注意(実際は同じ病態の表現型の違い)[1]。
- 直腸指診は診断に有用だが侵襲的手技。目的説明・同意取得・プライバシー確保・付添者立会・施行者の性別配慮が必要。同意が得られない場合は腹部触診・画像検査で代替する[1]。
- 画像診断(腹部X線・腹部超音波)はfecal impaction自体の診断・重症度評価としては限定的なエビデンスで、「直腸指診が困難」「難治傾向の評価」「基礎疾患除外」が必要な場合に行う(推奨度B)[1]。
2-4. disimpaction(便塊除去)
fecal impaction陽性例は、経口薬・経直腸治療(浣腸・坐薬)・両者の併用のいずれかで行う。優劣を示す強いエビデンスはなく、家族を意思決定に参加させて選択する(推奨度B)[1]。
| 経路 | 薬剤(一般名) |
|---|
| 経直腸(浣腸) | グリセリン浣腸液 |
| 経直腸(坐薬) | ビサコジル/炭酸水素ナトリウム+無水リン酸二水素ナトリウム |
| 経口(浸透圧性) | 酸化マグネシウム/水酸化マグネシウム/ラクツロース |
| 経口(刺激性) | ピコスルファートナトリウム/センノシド |
- 実施期間の目安: 数日〜1週間。必ず再診し効果判定を行う。排便日誌の活用が有効[1]。
- 国際GL(NASPGHAN/ESPGHAN 2014)は経口PEG(1〜1.5 g/kg/日を3〜6日間)をdisimpactionの第一選択としているが、当時の日本にはPEG3350+電解質の保険適応がなく、JSPGHANガイドライン本体(2013年版)の表には掲載されていない[1][2]。現在はモビコール(PEG製剤)に小児の便秘症適応があるが、添付文書の用法用量は通常の段階増量法であり、高用量disimpactionプロトコルとしての用量・投与法は明記されていない点に注意(下記2-6参照)[4]。
- disimpactionが奏効しない、外来治療が困難な重度impactionでは、入院治療または全身麻酔下摘便を要することがあるため、小児便秘症の治療経験豊富な小児科医・小児外科医への紹介を検討する[1]。
- 治療開始時は一過性に症状(腹痛・漏便)が強くなり得ることを、事前に患者・養育者へ説明しておく[1]。
2-5. グリセリン浣腸(体重換算・手技の考え方)
添付文書上の用法用量は年齢・症状により適宜増減で、体重換算のmg/kg式は設定されていない(用量は「年齢」ベースで調整する薬剤)[5]。
- 用量: 通常1回10〜150 mLを直腸内注入。年齢・症状により適宜増減[5]。
- 挿入深度の目安: 乳児3〜4 cm/小児3〜6 cm/成人5〜6 cm[5]。
- 体位: 左側臥位。立位での実施は禁止(直腸穿孔リスク)[5]。
- 禁忌: 腸管内出血・腹腔内炎症のある患者、腸管穿孔またはそのおそれのある患者、全身衰弱の強い患者、下部消化管術直後、急性腹症が疑われる患者[5]。
- 乳児への注意: 添付文書上「乳児に投与する場合は慎重に投与すること。患児側の反応を十分に把握できない場合、過量投与に陥りやすい」と明記されている=乳児は年齢の割に少量から[5]。
- 連用回避: 連用による耐性増大等で効果が減弱し薬剤に頼りがちになるため長期連用を避ける(disimpactionの補助として使い、維持療法の主軸には据えない)[5]。
2-6. 維持療法(PEG/酸化マグネシウム/ラクツロース)
維持療法は原則として浸透圧性下剤(塩類下剤・糖類下剤)から開始する(推奨度C1)。効果発現に数日を要すること、十分な水分摂取が必要なことを事前に説明する[1]。JSPGHANガイドライン表11-2では、乳児期の浸透圧性下剤として「ラクツロース・酸化マグネシウム・マルツエキス」の3剤が挙げられている(幼児期以降は酸化マグネシウム・ラクツロース・水酸化マグネシウムが中心)[1]。
マルツエキス ── モビコール(2歳以上)・マグミット等の酸化マグネシウム製剤(銘柄により1歳以上)が使えない1歳未満児で使える浸透圧性下剤の代表[1]。
- 添付文書上の小児投与量の目安:6か月未満 1回3〜6 g/6か月以上1歳未満 1回6〜9 g/1歳以上3歳未満 1回9〜15 g、いずれも1日2〜3回経口投与[1]
- 主成分は麦芽糖(マルトース)で、副作用はほとんどないとされる[1]
- 一般用医薬品・医療用医薬品の両方が流通しており、医療用は保険適応がある[1]
モビコール配合内用剤(PEG/マクロゴール4000) ── 小児の便秘症に対する保険適応あり[4]。
- 2歳以上7歳未満:初期用量はLD配合内用剤1包を1日1回経口投与
- 7歳以上12歳未満:初期用量はLD配合内用剤2包またはHD配合内用剤1包を1日1回経口投与
- 増量は2日以上の間隔をあけ、増量幅は1日量としてLD1包ずつ
- 最大投与量:1日量LD4包(1回量LD2包)
- 禁忌:腸閉塞、腸管穿孔、重症の炎症性腸疾患が確認されている患者。重大な副作用としてショック・アナフィラキシーの記載あり[4]
- 添付文書に体重換算(mg/kg)での用量記載はなく、年齢区分での段階増量が基本[4]
酸化マグネシウム ── 銘柄によって小児の用法用量記載の有無が異なる点に要注意。
- マグミット®錠/マグミット®細粒83%(2025年改訂の電子添文で小児用法用量が整備)[7]:
- 通常、1歳以上の小児には酸化マグネシウムとして1日20〜80 mg/kgを食後2回に分割経口投与
- 開始用量の目安は1日40 mg/kg。便性状(Bristol様の便性状評価)に応じて増減する(コロコロ便・硬便が続けば増量、泥状便・水様便が続けば減量)
- 低出生体重児・新生児・乳児を対象とした臨床試験は未実施
- 他社の酸化マグネシウム製剤(例:酸化マグネシウム錠「TX」等、2023年改訂添付文書)には小児向けの用量記載がなく、「年齢、症状により適宜増減する」という成人用法の記載にとどまるものがある[6]。処方時は製剤ごとに添付文書の小児記載の有無を確認する。
- 重要な基本的注意(酸化マグネシウム全般):高マグネシウム血症は腎機能正常・通常用量以下でも重篤な転帰の報告があり、必要最小限の使用、長期投与時は定期的な血清マグネシウム濃度測定、嘔吐・徐脈・筋力低下・傾眠が出現したら中止し受診、と明記されている(重大な副作用:高マグネシウム血症→呼吸抑制・意識障害・不整脈・心停止に至り得る)[6]。
- 併用注意(薬物相互作用):添付文書上、テトラサイクリン系・ニューキノロン系抗菌薬、活性型ビタミンD3製剤を含む骨粗鬆症治療薬、一部のCa拮抗薬(エホニジピン塩酸塩エタノール付加物等)、ジギタリス製剤、ポリカルボフィルカルシウム、大量の牛乳・カルシウム製剤との併用で吸収・作用に影響が出得るとされている。慢性疾患合併・多剤併用児では見落としやすいため処方時に確認する[1]。
- ガイドライン本文でも、腎機能正常な小児に通常量投与した検討では血清Mg値上昇は軽度(2.4 mg/dL:便秘児 vs 2.2 mg/dL:対照群)で臨床的に問題となるレベルではないと報告されている一方、腎機能低下児では十分な注意が必要、年少児ほど血清Mg値が上昇しやすい傾向があり、特に乳児への長期投与時は注意、とされている[1]。
ラクツロース(モニラック等) ── 小児適応あり。用量は便の性状により適宜増減する。高アンモニア血症に伴う症状の適応もある製剤がある[1]。
その他: 浸透圧性下剤で無効な例には刺激性下剤(ピコスルファートナトリウム等)、消化管運動賦活薬(モサプリド)、漢方製剤(大建中湯、小建中湯、大黄甘草湯等)が有効な場合がある(推奨度B)。刺激性下剤は乳児には推奨されず、あくまで救済的・短期投与が原則(海外GL)[1]。
- 漢方製剤の安全性注記:添付文書上、小建中湯は3か月未満の乳児には使用しない。大建中湯・小建中湯・大黄甘草湯はいずれもカンゾウ(甘草)を含み、重大な副作用として偽アルドステロン症・ミオパシーの記載があるため、血清カリウム値・血圧に十分注意する。大建中湯には重大な副作用として間質性肺炎・肝機能障害の記載もある[1]。
2-7. 維持療法の継続期間・中止判断
- 治療薬の減量・中止が早すぎると再発しやすく、薬物維持療法には通常6〜24か月を要する(推奨度A)[1]。
- 排便困難がなく規則的な排便が習得できても、数週間はそのまま継続し、その後数か月かけて徐々に減量・中止を検討する[1]。
- 幼児では、排便自立(トイレットトレーニング完了)ができるまでは治療を継続する[1]。
- 薬物治療開始から6か月以内に規則正しい排便習慣が得られる患児は約50%。2年以内に薬物治療を完全に中止できる患児も約50%で、約25%は思春期になっても薬物療法を要する。初期治療が成功しても5年以内に約半数で1回は再発するため、少なくとも1年間の経過観察が必要[1]。