アトピー性皮膚炎は十分量の外用を貫き、二次感染を見逃さない
外用不足(FTU基準で処方量の42.4%が不足)が慢性化・再燃の主因になりやすい。「薄く塗る」でなく十分量(FTU基準)を保湿と抗炎症外用薬のセットで塗ることが基盤で、その上に重症度・部位・年齢に応じたランクの外用薬を選ぶ。カポジ水痘様発疹症・とびひ・免疫不全示唆所見などのレッドフラグを見逃さない。
始める前に
- 瘙痒、特徴的皮疹と分布(急性病変と慢性病変の混在)、慢性・反復性経過(乳児2ヶ月以上、その他6ヶ月以上)の3つを満たすかで診断する
- 年齢による皮疹分布(乳児期は頭・顔から体幹・四肢へ下降、幼小児期は頸部・四肢屈曲部、思春期以降は上半身)に合致するか確認する
- 強い炎症を伴う皮疹の体表面積(BSA)で重症度(軽症/中等症10%未満/重症10〜30%未満/最重症30%以上)を判定してから治療方針を決める。一度の診察で決め打ちせず経過も含め総合評価する
- 難治性・治療反応不良の湿疹では、疥癬・接触皮膚炎の見落としや外用量不足をまず再確認する。乳児では乳児脂漏性皮膚炎との鑑別も行う
- 出生直後からの重症紅皮症・湿疹様皮疹に好酸球増多・毛髪異常・免疫不全示唆所見が重なる場合は、Netherton症候群・Omenn症候群・Wiskott-Aldrich症候群を鑑別に挙げてから治療方針を決める
手順
- 1
入浴後速やかに、皮膚の乾燥が気になるタイミングで1日複数回、刺激の少ない保湿剤をたっぷり塗布する
保湿単独では中等症以上の炎症は制御できないため、必ず抗炎症外用薬と併用する
- 2
重症度・部位・年齢に応じてステロイド外用薬のランクを選ぶ(顔・頸部・間擦部などはミディアム〜ストロング、体幹・四肢は重症度に応じてストロング〜ベリーストロング)
- 3
塗布量は体重換算でなくFTU(finger tip unit)で考える。保護者が塗布する場合も保護者自身の指のFTUを基準にする
- 4
処方量の指導は「薄く塗る」でなく「ティッシュに軽く付着する程度、テカる・少し光る程度まで」量を確保するよう伝える
FTU基準で42.4%の処方量が不足していた一方、不足を自覚していた患者は15.2%にとどまる
- 5
頻回に再燃する部位には、寛解導入後も保湿を継続しつつステロイド外用薬またはタクロリムス軟膏を週2回程度予防的に塗布するプロアクティブ療法へ移行する
炎症が消退して正常に見える皮膚にも炎症細胞が残存し再燃しやすい
- 6
標準治療(スキンケア+適切な外用薬+プロアクティブ療法)で十分な効果が得られない中等症以上は、外用療法の質を十分検証してから全身療法への切り替えを検討する
- 7
経口JAK阻害薬・生物学的製剤の導入前に、生ワクチン接種歴と今後の接種予定を確認し専門医と共有する
やってはいけない
- 保護者のステロイド忌避を理由に無治療・自己判断中止で放置すること。炎症を残すと慢性化・苔癬化・かゆみの悪循環を招き、結果的により強いランク・より長期のステロイドが必要になる
- 「薄く塗る」指導によるFTU不足のままの継続。不十分な抗炎症治療は寛解に到達できず再燃を繰り返す原因になる
- 明確な食物アレルギーの確定診断(病歴+必要に応じた専門的検査・食物経口負荷試験)なしに、保護者の自己判断・AIの提案で食物除去を行う/勧めること
- 保湿剤を併用せず抗炎症外用薬のみで管理すること
- 抗ヒスタミン薬内服のみで炎症そのものをコントロールしようとすること
- 外用不足を検証せずに安易に全身療法へ移行すること
- 「顔だから」「年齢が低いから」という理由だけで皮疹の重症度に見合わない弱いランクを選んでしまうこと
- 出生直後からの紅皮症・特徴的な毛髪異常を伴う難治性湿疹(Netherton症候群疑い)に、通常のAD治療と同様に強いランクのステロイドを広範囲・長期に外用すること。経皮吸収が全身に及び医原性クッシング症候群・副腎抑制を招くリスクがある
- 眼囲に強力な外用ステロイドを反復使用すること自体が緑内障・白内障の医原性リスクになるため、眼囲は原則ウィーク〜ミディアムランクに留める
終わったあと
- 大きさのそろった水疱・びらんが急に多発し発熱や元気のなさを伴う(カポジ水痘様発疹症の疑い)は再受診すべきサインと伝える
- 黄色い浸出液・かさぶたを伴う発赤が急速に広がる、または熱を持って腫れが広がる(とびひ・蜂窩織炎の疑い)は再受診すべきサインと伝える
- 標準治療を1〜2週間続けても改善しない、またはかゆみで眠れない状態が続く場合は再受診すべきサインと伝える
- 体重が増えない・食欲がない・活気がない状態が続く場合も再受診すべきサインと伝える
- AD自体は学校感染症には該当せず登園・登校を制限する必要は基本的にないが、合併したとびひは治癒するまでプール・入浴の共用を避けると伝える
- ステロイドは適切なランク・十分な量(FTU基準)・適切な期間で使用すれば効果が高く副作用は管理可能であり、忌避による中断はかえって長期・強いステロイドを招くと説明する
- 「掻き壊した部位に黄色いかさぶた」=とびひ、「大きさのそろった水疱・びらんが急速に多発し発熱を伴う」=カポジ水痘様発疹症、という見分け方を伝える
- 湿疹があること自体は食物アレルギーの証拠ではなく、自己判断・インターネット情報での食物除去は行わないよう伝える
- ダニ対策(寝具の洗濯・天日干し、拭き掃除、エアコンフィルター清掃)と汗・摩擦・爪による掻破対策(発汗後の洗い流し、爪を短く切る)を伝える
この場で持てない・送る
- 標準治療を数週間〜数ヶ月継続しても中等症以上が持続する場合、全身療法の適応検討で皮膚科・アレルギー専門医へ紹介する
- 眼囲の重症・難治病変は眼科紹介を検討する
- カポジ水痘様発疹症で広範囲・全身状態不良の場合は入院適応
- 免疫不全症を疑う所見がある場合は速やかに専門施設へ紹介する
- 生物学的製剤(デュピルマブ等)は厚生労働省の最適使用推進ガイドラインにより投与施設・医師に専門医の関与等の要件が課されるため、紹介先が要件を満たすか事前に確認する
- 要確認:院内採用のステロイド外用薬・タクロリムス軟膏・デルゴシチニブ軟膏・ジファミラスト軟膏の採用状況、全身療法紹介先とルート、疥癬疑い時の顕微鏡検査体制、カポジ水痘様発疹症の入院・点滴体制、食物アレルギー精査への紹介ルート
- 要確認:経口JAK阻害薬・生物学的製剤の適応年齢・体重条件は製剤ごとに改定されるため、導入前に最新添付文書で必ず確認する
手順・適応・禁忌はすべて本シートの正本の記載のみ。院内の器材・採用薬・搬送先は施設ごとに違うため、適用前に院内ルールを確認すること。