腸重積・虫垂炎・肥厚性幽門狭窄をエコーで見分ける
腸重積は間欠的な不機嫌・啼泣が最初のサインで、血便は遅発所見。胆汁性嘔吐を見たら、肥厚性幽門狭窄より先に腸回転異常症・中腸軸捻転を除外する。
始める前に
- 腸重積の疑診基準を確認する:A項目(腹痛ないし不機嫌/血便/腹部腫瘤ないし膨隆)が2つ、A1つ+B1つ、ないしB3つ以上。腹痛ないし不機嫌が間欠的な場合はそれだけで疑診とする(三主徴を待たない)
- 腸重積の非観血的整復の禁忌を確認する:ショック、腹膜刺激症状、腹部単純X線で遊離ガス(消化管穿孔疑い)
- 胆汁性(緑〜黄色)嘔吐があれば、肥厚性幽門狭窄の精査より先に腸回転異常症・中腸軸捻転を最優先で除外する
手順
- 1
腸重積を疑ったら超音波でtarget sign(短軸像)とpseudokidney sign(長軸像)の両方を確認する
- 2
非観血的整復はバリウムを使わず、水溶性造影剤(6倍希釈アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン)または空気を用いる
- 3
6倍希釈水溶性造影剤は100cm溶液柱前後から開始し120cm溶液柱まで、空気整復は80mmHgから開始し120mmHgまで上げる。6か月未満の乳児はさらに低い圧(水溶性造影剤80cm溶液柱、空気60mmHg)から開始する
- 4
透視下整復は3分間加圧を3回(rule of threes)を基準とする
- 5
初回整復が不成功でも、全身状態が良好で先進部が部分的に移動していれば時間をおいて再度非観血的整復(delayed repeat enema)を試みる
開腹しても10〜14%は既に整復されている
- 6
2回以上再発する症例・年長児では、整復時の超音波検査で病的先進部(Meckel憩室・ポリープ・悪性リンパ腫等)を積極的に検索する
- 7
虫垂炎は径>6mmかつ非圧縮性(プローブ圧迫で虫垂径が変形しない)を中核所見として判定する
- 8
虫垂炎超音波陰性でも臨床的疑いが強ければ、補液後の再検査など経過観察・再評価を行う
- 9
肥厚性幽門狭窄は幽門筋層厚3〜4mm以上・幽門管長14〜17mm以上を基準に判定する。判定に迷う場合は複数断面での再測定・時間をおいた再検査を検討する
- 10
肥厚性幽門狭窄では、手術の前にまず輸液で脱水を補正し、電解質(Cl・K)を正常化してから幽門筋切開術を行う
やってはいけない
- 腸重積の非観血的整復にバリウムを使わない(穿孔時にバリウム性腹膜炎を起こすと重篤化・洗浄しても除去困難)
- 血便がないことで腸重積を否定しない(血便は遅い所見で、発症12時間以内の自然排便での血便はまれ)
- 三主徴(腹痛・嘔吐・血便)が揃わないことで腸重積を否定しない(初診時に揃うのは10〜50%程度)
- Dance徴候の陰性だけで腸重積を否定しない(出現頻度は10%程度と低く、陰性でも否定的所見にならない)
- 整復不成功=即手術としない(全身状態良好で先進部が部分的に移動していればdelayed repeat enemaを検討する余地がある)
- 整復圧の単位を安易に変換しない:媒体は水ではなく希釈造影剤であり比重が異なるため、cm表示(水柱高)で運用する施設はmmHg換算値を目標圧として流用せず、原典のcm数値をそのまま使う
- 生後2週未満の嘔吐は、先天性消化管閉鎖・牛乳蛋白アレルギー等の除外前に「幽門狭窄ありき」でエコーだけに頼らない
- 触診所見(オリーブ様腫瘤・Dance徴候)が陰性というだけで疾患を除外しない
- 胆汁性嘔吐を見たら、幽門狭窄のエコー精査を先に行わない
- 肥厚性幽門狭窄の電解質未補正のまま急いで手術に進めない(麻酔・周術期リスクが上がる)
- 典型的な感冒性胃腸炎で腹部所見が軽微・経過が矛盾しない場合に、明確な臨床適応がない反復エコーをしない
終わったあと
- 腸重積の家族説明:整復後、10人に1人くらいの割合で繰り返すことがあると伝える
- 帰宅時の説明(safety-netting):ぐったりして反応が悪い、嘔吐に緑〜黄色の色がつく、血の混じった便が増える、お腹をひどく痛がる、顔色が悪い、のいずれかがあればすぐに受診するよう伝える
- 整復後、全身状態良好・アクセス良好なら入院せず外来で一定時間観察後の帰宅も可。抗菌薬のルーチン投与は不要
- 虫垂炎で今回の検査だけではっきりしない場合、数時間おいてもう一度エコーで確認することがあると伝える
この場で持てない・送る
- 緑色や黄色っぽい吐き物が出たら要受診
- 血の混じった便(イチゴジャムのような便)が出たら要受診
- 手術適応:ショックが改善しない、腸管壊死・穿孔、腹膜炎、非観血的整復で整復できない、病的先進部がある
- 要確認:夜間・休日の小児腹部エコー担当体制(放射線技師オンコール・当直医対応可否)
- 要確認:腸重積の非観血的整復の実施体制(放射線科でのX線透視整復か超音波下整復か)と使用造影剤(水溶性造影剤の採用状況)
- 要確認:虫垂炎疑い時の小児外科・外科コンサルトのタイミングと院内フロー
- 要確認:肥厚性幽門狭窄疑い時の紹介先(小児外科)と輸液・電解質補正プロトコルの標準化状況
手順・適応・禁忌はすべて本シートの正本の記載のみ。院内の器材・採用薬・搬送先は施設ごとに違うため、適用前に院内ルールを確認すること。